日本時間9月15日早朝、Appleの新商品発表会がストリーミング配信された。前回(iPhone 12シリーズが発表)からの間隔は11か月である。このスケジュールは、10月5日に迎える「スティーブ・ジョブズ没後10年」とのバッティングを回避したものかもしれない。
CEO就任10周年を迎えたティム・クックが、総合司会のようにプレゼンテーションを進行していく(画像はオンラインイベントより、以下同じ)
配信で紹介されたハードウェアは7種類で、iPad、iPad mini、Apple Watch、iPhone 13、iPhone 13 mini、iPhone 13 Pro、iPhone 13 Pro Maxのそれぞれ新型だ。どれも旧モデルからの正統進化を遂げているが、度肝を抜くような新製品の登場はなかった。
教育界に熱視線送る新型iPad
最初に紹介されたのは、「無印」とも呼ばれるエントリーモデルのiPadである。各種機能が向上したとはいえ、第2世代のApple Pencilには対応しておらず、すでに発売されたiPad Proや、後述するiPad miniと比べると見劣りする。
それでも、3万9800円からという価格は魅力だ。教育市場向けの価格は299ドル(アメリカ)からと、一時期のネットブックに匹敵する低価格を実現した。安価なタブレットならAmazonの「Fire」もあるが、3万円台の製品で一番性能が高いのは、おそらく無印iPadとなるだろう。オンライン授業の普及を受け、安価な端末選びが問題になっているが、カメラとディスプレイに強みを持つ新型iPadは魅力的な選択肢になりそうだ。
続いて発表されたのが、8.3型のミニモデル「iPad mini」。デザインもリニューアルされており、Touch IDはトップボタンに内蔵。姉妹製品の「iPad Air」(10.9型)に近いデザインになった。
新型となったiPad mini。iPad ProやiPad Airなど、高級タブレットのデザインを継いでいる
小型軽量ながら、性能的には最高級品の「iPad Pro」にも肉薄する。値段は5万9800円からで、玩具として買うのなら安くはないが、用途が定まっているのなら購入すべき良品だ。
Apple Watchもリニューアル
Apple Watchは、今回のリニューアルで第7世代の「Series 7」となった。廉価版の「Apple Watch SE」や、旧世代機の「Series 3」と併売になる見込みだ。
Apple Watchの新型は「Series 7」を名乗る。安価で併売される旧モデルとどちらを選ぶか悩みどころだ
文字盤のディスプレイ面積が拡がり、バッテリーの保ちも向上した。それでも持続時間は18時間程度だというから、「充電からの解放」はずっと先のことになりそうだ。腕時計を毎日充電する習慣に適応できるのならば、健康をサポートする強い味方になってくれるだろう。
愛用者も多いApple Watchを“失敗作”だと言うつもりは毛頭ないのだが、シンプルな生活を愛するスティーブ・ジョブズがこの製品を世に出したかと考えると、NOではないだろうか。Apple Watchは、クック体制を象徴する製品であるように思える。
「iPhone 13」も4モデルで登場
「13」は欧米における忌み数なので、欠番となるという説もあったが、「iPhone 13」シリーズが無事にお披露目された。12シリーズ同様、「iPhone 13」「iPhone 13 mini」「iPhone 13 Pro」「iPhone 13 Pro Max」の4本立てである。
iPhone 13の発売後も、当面はiPhone 11/SE/12シリーズが併売される見込み。「ノッチなし」や「指紋認証」を望むユーザーには、最廉価機のiPhone SEが応える形だ
内部パーツの性能は向上しているが、カメラ以外ほとんどの点では12シリーズと違いがない。iPhone 12 miniを愛用している筆者としては、片手で持ちやすい小型モデルの続投が嬉しいばかりである。
2020年10月に書いた「新型iPhone 12シリーズの記事」と同じアドバイスになるが、徒歩や電車での移動が多いのなら、片手でホールドできるiPhone 13 miniを選ぶと良いだろう。カメラ性能にこだわる場合は、トリプルカメラを搭載、曲芸的なビデオ撮影も可能なiPhone 13 ProやPro Maxを選ぶべきだ。
今回もLightningコネクタに失望!
総合的に見て、今回のアップデートは保守的な内容だった。最安価モデルのストレージ容量が倍増するなど“お買い得感”の強いモデルではあるが、本格的な刷新は来年のiPhone 14シリーズを待つことになりそうだ。
iPhone 12に搭載され、その頑丈さが実証されつつあるのが「セラミックシールド」仕様のフロントパネル。iPhone 13シリーズでも同一の部品を採用と見られる
そして、どうしても納得いかない点がひとつだけある。iPhone充電用のコネクタとして、「Lightning」という劣った規格を続投させたことだ。
Lightning規格のケーブルは、実質的にApple製品専用であり、値段が高いだけでなく、頻繁に故障する。ポート(本体側の受け口)の耐久性にも疑義が持たれ、iPhone本体の機械的寿命を減じているという説があるほどだ。
これに関しては、全世界のユーザーが汎用性と信頼性に優れる「USB-C(USB Type-C)」規格への変更を熱望している。しかしその夢はまたもや叶わず。世界人類は2022年も、Lightningの不便さに悩み続けることが確定してしまった。
USB-Cの火付け役もAppleなのに…
今回採用されたプロダクトのうち、iPad miniではUSB-Cを採用。しかもAppleはその強みを宣伝している。Appleに務める設計者も、本当はLightningなんていう失敗作とは決別したいはずだ。
知的財産権で固められたLightning規格は、たしかにAppleの収益構造に寄与しているが、今となっては製品の魅力を削ぐ側面のほうが大きいように思える。ライバルの“中華スマホ”が魅力を増しているいま、悪名高いLightningに固執するのは愚策だろう。
そもそも、USB-Cの多用性にいち早く注目したのは、他でもないAppleだ。2015年モデルのMacBookでは、USB-Cポートを充電・通信の兼用とすることで、筐体の小型化に成功した。現在ではMacBook AirやMacBook Proもこれに倣っており、本当ならばAppleがUSB-C振興の旗手となっていてもおかしくなかった。
ところが現実には、優秀なUSB-C規格を活用するのはライバルのAndroid陣営で、筆者を含めたApple派はホゾを噛むばかり。13万4800円のiPhone 13 Pro Maxでさえ、有線接続時には時代遅れのLightningケーブルを使うことになる。そんな不便な高級機は他にない。
話題に欠けるアップデートだっただけに、この機会に「Lightning廃止」のドラを鳴らしてほしかった……というのが、iPhoneユーザーとしての偽らざる本音である。