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米タイム誌「今年の発明品100」に選出 イスラエルの英雄がつくった「目」

立ち上げた会社が次々と世界を変えていく──。そんな天才起業家が中東の地にいる。社会課題をテクノロジーで解決するAI(人工知能)の権威の瞳に、未来はどう映っているのか。 もし、「クルマ」にAI(人工知能)を搭載したらどうなるか──。 アムノン・シャシュア(60)にとって、その答えはソフトウェア企業「Mobileye(モービルアイ)」だった。AIとコンピュータ・ビジョンの領域で世界的な権威である彼は、イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学で教鞭を執る傍ら、1999年にモービルアイをジブ・アビラムと創業。同社は自動車と人、障害物の衝突を防ぐAI搭載型のソフトや画像認識用半導体、車載カメラを開発している。 14年に同社を100億ドルの企業評価で米ニューヨーク証券取引所へ上場させた後、17年に米半導体大手インテルに153億ドルで売却。インテルの子会社に収まった今も、シャシュアは同社の副社長を務めつつ、モービルアイで陣頭指揮を執っている。21年12月上旬には、インテルが同社を再上場させることを発表。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、その企業価値を500億ドル(約5兆7000億円)と見積もっている。 それならば、「ヒト」にAIを搭載した場合は?  シャシュアは、その答えにもたどり着こうとしている。それが、10年創業のAIカメラ搭載型視覚支援デバイス開発企業「OrCam Technologies(オーカムテクノロジーズ)」だ。やはり前出のアビラムと一緒に立ち上げた同社は、21年までにインテル・キャピタルなどから累計9000万ドル以上を調達。18年には、評価額10億ドル以上の未上場企業“ユニコーン”の仲間入りを果たしている。 AIとカメラ。モービルアイと技術的な根幹は同じように思える。やはり、オーカムはモービルアイの技術やコンセプトの延長線上で作られた会社なのだろうか? Forbes JAPANの独占インタビューに応じたシャシュアは、両者の技術的な共通点を認めつつも、「思想上の出発点は別」だと明かす。 「両社には『コンピュータ・ビジョン』という共通点があります。ただオーカムの場合は『もし、AIとコンピュータ・ビジョンをウェアラブル端末に装着したら、誰にとっての助けになるだろう?』という、異なる問題意識があったのです」 そして、もう一つ。オーカム誕生の背景には、シャシュアの個人的な想いもあった。 話は1980年代にさかのぼる。当時、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の博士課程に在籍していた彼は、休日を使ってニューヨークで暮らす叔母を訪れた。叔母は、加齢黄斑変性を患っていた。それは、モノを見るために必要な黄斑という組織が、加齢とともに変化して視力の低下を引き起こす病気であり、失明の可能性もあった。シャシュアは視力が衰える叔母に懇願された。 「あなた、お医者さまでしょ。なんとかならないの?」 ドクターと言っても博士で、数学者のようなものだから—。弱り切ったシャシュアはそう答えたが、このやりとりが心に引っ掛かり続けた。 それから30年余。オーカムは、シャシュアの叔母のように目が不自由な人(視覚障がい者)や高齢者、失読症の人を対象に、ウェアラブル視覚支援デバイス「Orcam MyEye(オーカム・マイアイ)」と、「OrCam Read(オーカム・リード)」を販売している。ユーザーはメガネのフレームに、磁気でくっつく人差し指大の端末「マイアイ」を装着し、「記事の見出しを読んで」と伝えれば、端末は見出しをスキャンして検索結果を読み上げ、知りたい記事の内容を音読してくれる。印刷物はもちろん、紙幣、スマホやパソコンの画面、缶など曲がった形状のモノの表面もスキャンできる。一方の「リード」は読むことに特化したスティック状の端末だ。 マイアイは、カーナビならぬ“ヒトナビ”としても使える。周辺にいる人や物体、空間についても教えてくれるのだ。顔認証機能が男性、女性、子供を識別するほか、知り合いを登録すれば、その人物も教えてくれる。しかし、プライバシー保護の観点からデータは端末にのみ留まる。スキャンしたデータは読み上げが終了すると、自動的に消去される設計で、クラウドに送られることはない。マイアイは19年に、リードは21年に米誌タイムが選ぶ「今年の発明品100」に選出されている。 取り残してきた人々の“救出” マイアイの可能性を表す出来事がある。イスラエルではここ数年、与党が連立政権を樹立できず、総選挙が続いた。視覚障がい者にとって投票は容易なことではない。そこで19年、オーカムは政府と協力してある実証実験を行った。国内12カ所の投票所にマイアイを用意したのだ。2万人以上の視覚障がいをもつ有権者の、エスコートなしで、プライバシーが守られた状態での投票を支援するという、世界で初めての試みとなった。民主主義の根幹である選挙に参加できずに、“仲間外れ”にされていた多くの市民が、社会に参加できた瞬間だった。 「オーカムを使っても目が見えるようになるわけではありません。でも、代わりにできることがあります。誰かが常に同伴して文章の内容や障害物、危険について教えてくれるように」(シャシュア) シャシュアの問いはさらに深まっていく。これが「目」だとしたら、「耳」の場合はどうか? 人は、大人数が集まっている場でも周囲の雑音から話し相手の声を聞き分けて会話ができる。いわゆる「カクテル・パーティー効果」と呼ばれるものだ。しかし、補聴器を使っている聴覚障がい者にとって、こうしたノイズが多い場での聞き分けは容易ではない。そこで、マイアイのカメラやAI、画像認識機能と組み合わせることで“読唇術”のように話し手の口の動きを読み、声を聞き取りやすくする端末「OrCamHear(オーカム・ヒア)」を開発。22年下半期の発売を予定している。 オーカムの社員によると、シャシュアは「相棒としてのAI」という言葉をよく口にする。つまり、AIは無機質なアルゴリズムから、パーソナライズされた利用者の友になる可能性を秘めているのだ。 社会の問いに、会社で答えよ こうした製品はありそうでなかった。シャシュアは、その理由として技術的な難しさとともに、ある“盲点”を挙げる。それは「作り手の思い込み」だという。 オーカムは創業から試作品を開発するまでに5年近く費やしている。その間、のべ100人以上の視覚障がい者を調査した。15年の段階で、オーカムの端末は90%機能していた。まったく見えないゼロの状況から90%である。悪くはないはずだ。 ところが、肝心の利用者による評価は芳しくなかった。さすがのシャシュアもこれは予測できなかった、と振り返る。 「障がいをもつ人は、困難を乗り越えるスキルを身につけています。効率的ではないように見えても、彼らにとっては合理的で快適なやり方なのです。彼らはもちろん、新たなテクノロジーを取り入れる柔軟性も持ち合わせていますが、それはテクノロジーが『100%』の時だけです」 90%の出来では見えないのと同じ—。自信作を潜在顧客に突き返されたわけだが、それは結果的によい方に作用した。今では類似品は数あれど、オーカムの技術レベルに迫るものはほとんどない。 シャシュアはなぜ、10数年も開発が続く事業を複数も抱え、しかも経営幹部を続けてこられたのだろうか? 彼は「今のテクノロジーがもたらす一大変革が自分を突き動かしている」と答える。 「もちろん、テクノロジーによる変革のすべてがいいわけではありません。ソーシャルメディアが一例です。それでも、一歩下がってテクノロジーの未来を俯瞰すれば、AIがもたらすオートメーション(自動化)のうねりが見えるはずです。それを正しく理解することで危険を遠ざけ、私たちの生活がよりよくなるように生かすこともできます」 シャシュアの場合、それはモービルアイで交通事故を減らし、オーカムで障がいから人々を解放することを意味する。彼は今、会社を次々と立ち上げている。17年にはAIの先端研究企業「AI21 Labs(AI21ラボ)」、そして19年にはイスラエルにとって50年ぶりとなる銀行「First Digital Bank(ファースト・デジタル・バンク)」である。 その理由も明確だ。一般的に、世の中では「答え」を見つけることが尊ばれるが、シャシュアは違う。「常に『問い』から始める」と話す。 「解決するに真に値する問いとは何か? それもテクノロジーだけではなく、科学の観点からも人類を前進させる価値があるかどうか、が重要です」 価値ある問いを生み出すには、その問いをシンプルに、本質的に、そして明晰に定義づけることが大事だ。多くの人が問題解決に失敗するのは、そもそも「問いを明晰に定義できていないからだ」とシャシュアは指摘する。 社会の問いに、会社で答える—。シャシュアは経営者として働きながら、今も教授として学生たちと研究に勤しみ、毎年、新たな論文を発表している。「問い」が見つかる限り、これからも世界を変える会社が生まれるに違いない。 ウェアラブル資格支援デバイス「OrCam MyEye(オーカム・マイアイ)」は全盲および弱視の利用者が使いやすいように、直感的なタッチやスワイプで操作できる作りだ(上)。磁気式で軽量なのでメガネのフレームに簡単に装着できる。実際に装着して新聞を読む共同創業者のジブ・アビラム(下)。モービルアイの共同創業者でもある。ちなみに、社名の「Or」は聖書ヘブライ語で「光」を意味し、英語の「物体認識(Object Recognition)」の頭文字でもある。「Cam」は英語の「カメラ(Camera)」に由来し、聖書ヘブライ語で「全盲」の意味もある。 HIS ANSWERS シャシュア教授の社会への答え コグニテンス 1995年創業、3D光学的測定機器開発企業。シャシュアが立ち上げた最初の会社。ベルテックスなどの出資を受け、2007年にスウェーデンの多国籍企業ヘキサゴンが買収。 モービルアイ 1999年創業、先進運転支援システム(ADAS)開発企業。2014年にニューヨーク証券取引所へ上場後、17年にインテルが買収。21年12月、インテルが再上場を発表した。 AI 21ラボ 2017年創業、自然言語処理(NPL)開発企業。AIの権威で米スタンフォード大学教授のヨアフ・ショーハムと、若手起業家オリ・ゴシェン、シャシュアの3人が組むことが話題に。 ファースト・デジタル・バンク 2019年創業、フィンテック企業。イスラエルにとって50年ぶりの銀行創設。「今のフィンテックは扱っている領域が狭い。AIを使えばもっとできる」(シャシュア)。 オーカムテクノロジーズ◎2010年創業、イスラエルのAI(人工知能)搭載型視覚支援デバイス開発企業。創業者は、アムノン・シャシュアとジブ・アビラム。ウェアラブル端末「OrCam MyEye(オーカム・マイアイ)」と読書端末「OrCam Read(オーカム・リード)」を開発。それぞれ、19年と21年に米誌タイムで「今年の発明品100」に選出されている。 アムノン・シャシュア◎オーカムテクノロジーズ共同創業者。同社のCEO(最高経営責任者)とCTO(最高技術責任者)を兼務する。イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学教授で、専門は、AIとコンピュータ・ビジョン。モービルアイなども創業した世界屈指の連続起業家。