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故人のスマホを開ける料金「平均で約23万円」

スマホやパソコンに遺された故人の情報を「デジタル遺品」という。たとえば「スマホ」が遺された場合、遺族がロックを解除して、中を見ることはできるのか。フリー記者の古田雄介氏が取材した――。

※本稿は、古田雄介『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Wachiwit※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wachiwit

あまりに強固で、非常時には困るセキュリティ

スマホの特徴として、そのセキュリティの堅牢さが挙げられます。

重要な情報が集まる機器なので、スマホのセキュリティは非常に強固です。大抵の機種で保存されるデータは暗号化され、特殊な鍵を用いて開かないと取り出せない作りになっています。パソコンのように物理的にストレージを取り出してほかにつなげる、といった方法も普通はとれません。

だから、パスワード入力や生体認証などでログインできるように設定しておけば、紛失したり盗難に遭ったりしても中身を見られる可能性はかなり抑えられます。さらに機種によっては何度もロック解除を試みると中身を消去する設定や、遠隔でスマホの位置情報を特定する設定も選べるので、使いこなせばトラブルが生じた後でも追跡して事態の悪化を防げます。

しかしそれらはすべて持ち主に向けられた機能です。遺族でもあっても他人は他人。指紋も顔も異なりますし、パスワードを知らなければ、ログインの壁を突破することは相当難しいでしょう。強固なセキュリティは、非常時などには逆にとんでもなく高い壁になってしまう危険を持ち合わせています。

パスワードが分からなければ、第三者には開けない。その事実を全世界に知らしめたのが、2016年初頭にFBI、米連邦捜査局、がアップルに対して起こしたiPhoneをめぐる裁判です。

あのFBIでも「たった1台のスマホ」が開けない

15年12月、武装した2人のテロリストにより、カリフォルニア州サンバーナーディーノの障害者支援福祉施設で銃乱射事件が発生し、14人の命が犠牲になりました。2人の犯人は銃撃戦の末に射殺されたものの、事件の背後にテロ組織の影が見えたため、FBIは彼らの遺品を丹念に調べました。そしてその遺品のひとつにiPhoneがあったのです。

しかしそのiPhoneのロックは、FBIの精鋭部隊の技術力をもってしても解除できませんでした。そこでFBIはiPhoneの製造元であるアップルにロックを解除するソフトウェアを提供することを要請しましたが、アップルはこれを拒否。結果として連邦裁判所で争うことになったのです。

実はアップルは個別のロック解除を過去に数十件実施した実績があり、意に沿うことは技術的に不可能ではありませんでした。しかし、ソフトウェアを作って提供しろという、いわばマスターキーの提供を求める要請だったので拒否した、という背景があったようです。マスターキーが社外に出ると何らかのかたちで市井に流れるリスクがありますから、それはiPhoneのセキュリティを下げる危険な行為だとはねのけたわけです。

裁判ではどちらも主張を譲りませんでしたが、報道で事態を知ったイスラエルのIT企業・セレブライト社が自社開発したロック解除技術の提供を申し出たことで幕を閉じます。

その顛末を通して「FBIでもたった一台のiPhoneを自力で開けられない」という事実が世界中に広まりました。それくらいスマホのロックというのは強力なのです。

通信キャリアのショップは、端末の中身にはノータッチ

では、いざというとき、スマホを販売している側はどこまで対応をしてくれるのでしょうか。

まず、通信キャリアのショップに相談しても、ロック解除に関する相談は基本的に受け付けてもらえません。通信契約の解除や引き継ぎは必要書類を揃えれば応じてくれますが、端末の中身に関してはノータッチが原則です。パスワードが分からなくて使えないということなら、端末を工場出荷時の状態に戻す方法だけは教えてくれる、というのがせいぜいだと思います。

スマホを製造したメーカーのサポート窓口に相談しても同様です。画面が割れたり、データを保管しているフラッシュメモリーなどが故障したということなら、標準のサポートメニューに従って部品を交換したり、ときには丸ごと新品に取り替えてくれたりします。しかし、そのときでも元の機器に残っていたデータについては保証をしてくれません。

こうした悩みに日々直面している著者の立場からすれば、そういった体制をとるのなら、持ち主が設定したパスワードを無視して端末ロックを解除できるようなマスターキーを奥の手として用意してくれればいいのに、という気もします。

実際、Androidに関しては、2015年秋頃までは遠隔操作で端末のパスワードを変更する機能が実装されていました。故人のAndroid端末にかかったパスワードが分からなくても、持ち主のアカウント、グーグルアカウント、が分かれば、別の機器でインターネット上のサポートページにアクセスして当該端末のパスワードを変更し、中身に触れることができたのです。

しかしこの本の執筆時には、そのような手軽に使える秘技はもう存在しませんし、今後メーカーがこれに近い機能を復活させることを期待することも無理筋、と思っておいたほうがいいでしょう。

解除技術を持つ企業は存在するが…

iPhoneやAndroid端末のロックを解除する技術を持っている民間企業も存在することはします。先のセレブライト社の技術は複数国で実績がありますし、10年頃から日本でも導入されています。同社との関係は不明ながら、10年以降は刑事裁判などでスマホのロックを解除して確定的な証拠を特定した事例がしばしば報じられるようになっています。

ただし、これらの技術は過去に国の法執行機関にしか提供されておらず、国防や刑事事件に関わるような局面でなければ利用することはまず無理です。事件性のない故人のスマホを開くといった行為とはまったく無縁のもの、と認識しておいて間違いないと思います。

スマホのロック解除を検討してくれるデータ復旧会社も一部あります。

たとえば東京・銀座に本拠地を置くデジタルデータソリューションは17年9月から「デジタル遺品調査サービス」を提供しています。

費用は成功報酬型で、平均約23万円

19年9月までのおよそ2年間で918件の相談を受け、うち正式な依頼となったのは178件、機器別に見るともっとも多かったのは116件のスマホだったといいます。100%解除できる保証はありませんが、蓄積された経験に基づいて解決の糸口を探る、といった方法で向き合ってくれます。

古田雄介『スマホの中身も「遺品」です デジタル相続入門』(中公新書ラクレ)

ただし、費用は成功報酬型で平均約23万円。決して安くはありませんし、必ず開けられるという保証もありません。実際、スマホの型番やOSのバージョンによっては糸口が見つからずに断念するケースも少なくないそうです。しかし、事件性とは無関係に故人のスマホと向き合ってくれる専門サービスが存在することは、頭の片隅に留めておいてもいいでしょう。

まとめれば、社会がもはやインフラとしてスマホを求めるようになった一方で、持ち主が亡くなった後のケアに関して、オフィシャルのサポートは未整備なままということです。スマホはとても便利な道具ですが、その便利さは「持ち主が健在な状態」という薄氷の上に乗っているだけなのかもしれません。

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古田 雄介(ふるた・ゆうすけ)
フリー記者
1977年愛知県生まれ。名古屋工業大学社会開発工学科卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年に雑誌記者へ転職。2007年からフリーで活動し、2010年からデジタル遺品や故人のサイトの取材を本格化した。死生やデジタルをテーマに多数の記事を執筆している。著書に『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)、『故人サイト』(社会評論社)など。