新品互換用パソコン バッテリー、ACアダプタ、ご安心購入!
ノートpcバッテリーの専門店



人気の検索: ADP-18TB | TPC-BA50| FR463

容量 電圧 製品一覧

スペシャル

高齢者5人に1人が発症も...「認知症薬」に決定打が出ない理由

「認知症新薬」承認申請が株価を動かす

日本は超高齢社会となっており、そこでは認知症は65歳以上の5人に1人と身近な存在だ。

私も脳の疾患を専門にする脳神経内科医として、認知症の患者さんと向き合うことも多い。

外来では、軽い認知症や軽度認知障害(MCI)ならご本人、あるいは付き添っているご家族の方から、「認知症の新薬のニュースを見ましたが、使えないのですか?」と尋ねられることがある。

その一つに「アデュカヌマブ」がある。

これは、昨年(2019年)、エーザイがバイオジェン社とともに臨床試験していた早期の認知症(アルツハイマー病)の症状悪化を抑制する薬剤だ。

10月22日に、米国で新薬申請する予定と発表して大きなニュースとなった。

それ以降も、国際学会などでは新薬アデュカヌマブ関連の発表が相次いで行われ、たびたびマスメディアに登場した。

アルツハイマー病の原因とされるアミロイドベータ(Aβ)という物質を脳から取り除くことで認知症を改善させる根本治療薬との触れ込みだ。

この発表(10月22日)を受け5000円台だったエーザイの株価は数日で8000円台に跳ね上がっている。

エーザイの株価推移(グーグル検索より)

ただ、株価チャートをよくみると3月には9000円台から6000円台に急落しているのが、元に戻ったとわかる。

この急落は、同じアデュカヌマブについて臨床試験で有効性が認められないため研究開発を中止するとの発表(3月21日)の結果だ。

一つの薬剤が市場に出るかどうか──それどころか、それ以前の段階で新薬として申請する予定があるかどうかの発表だけ──で投資家が一喜一憂するわけだ。

認知症の新薬は待ち望まれている。

無益から有望への大逆転劇

だが、3月に中止すると発表した薬剤を10月に有望として発表したことには、私も首をかしげたし、多くの研究者がハテナと思ったようだ。

薬の投与量の多かった人だけ選び出した分析は恣意的ではないか、その場合は副作用(脳浮腫)の存在で新薬とニセ薬がバレていたのではないか、などとの疑問も出されている(Schneider (Dec. 3, 2019) Lancet Neurol)。

この経緯をたどると、画期的新薬の科学的「エビデンス」というものの現代での使われ方の限界が見えてくる。

アデュカヌマブはAβに対するモノクローナル抗体として開発された薬剤だ。

2012〜2014年に行われた臨床試験(165人の患者さんを対象)では、安全性が高く、脳内のAβを除去し、認知症症状を改善させる有望な新薬候補と見なされた(Sevigny et al (2016) Nature 537:50-6.)。

この研究はとても優れたもので当時大きな話題となった。

そこで2015年8月と9月から、ENGAGE試験とEMERGE試験として、軽度で早期のアルツハイマー病患者を対象とした二つの臨床試験(それぞれ1350人の予定)をスタートしたのだ。

始まって1年半経過した2017年には、1350人では有効性を十分に判断できないとして、参加する予定患者数を1650人に増やしている。

この辺りから少し旗色が悪い。

そして、2018年末に二つの臨床試験を合計しての患者数が1748人に達した時点で、中間段階評価(無益性試験)を行った。

その結果がよくなかったため中止の決断に至ったのが2019年3月のことだ。

ところが、2018年末から2019年3月の中止までの期間で、合わせて臨床試験を終えた患者数が318名増えた。

その人数を繰り入れて解析をやり直すとやはり有望だとの結果が出たため、投資家向けに10月22日にリリースされたとの経過だ。

「エビデンスに基づく医療」の登場

20世紀後半から、医薬品が市場に出される前には厳密に安全性と有効性を厳密にテストされるようになった。

病気はしばしばはっきりした原因がわからないまま自然に治癒する場合があり、しかも本人が効果を信じて服用すればニセ薬でも著効を示すこともある(プラセボ効果)。

つまり、立派な大学病院で威厳ある教授から重々しく「新薬」として処方されただけで、効果てき面になり得るのだ。

心の力(自然治癒力)であれ何であれ、病気から回復するなら患者としてはうれしい限りだが、医薬品の効力を調べる研究の目的では邪魔者だ。

そこで、「使った、治った、効いた」だけでは非科学的であって、新薬にはエビデンスが必要ということになった。

同病の患者さんをたくさん集めてきて、くじ引きで新薬とニセ薬の二つのグループに分け、患者本人はもちろん主治医も自分が新薬を処方しているのかニセ薬を処方しているのか知らないようにする仕組みが臨床試験だ(ランダム化対照比較試験)。

こうした臨床試験は統計学によって分析され、医薬品が有効であるエビデンスとして示される。

さて、ここで使われている確率や統計の基本にあるのは「大数の法則」である。

つまり、この場合であれば、臨床試験に参加する患者数が多いほど、個人差による平均のばらつきが抑えられ、信頼性の高い研究結果となるということだ。

ちなみに、米国の規定だと、新薬申請には二つ以上の患者数の多いランダム化対照比較試験が必須とされている(だから、ENGAGE試験とEMERGE試験の二つが同時並行していたわけだ)。

エビデンスかマジックか?

ただし、そこには臨床試験の実務という面で考えると、もう一つの裏の意味がある。

分かりやすい例を挙げよう。

放置すると100%致死的な病気があって、それに対して100%有効な薬があるとすれば、少人数の臨床試験をするだけで有効だと異論の余地無くすぐに分かるはずだ。

これは、虫垂炎(いわゆる盲腸)などの外科手術の場合を考えてみれば良い。

もし、病気がゆっくり悪化するもので、新薬がそれほど画期的でない場合、たとえば1年で20%悪化するが新薬を使えば悪化が16%程度に押さえ込めるという場合は、有効かどうか(平均20%と平均16%の差)を確認するため、多くの患者を集めて研究しなくてはならない。

つまり、一般論で言うと、たくさんの患者で確認された「エビデンスに基づく医療」は確かに科学的に有効なのだろうが、その有効性の効力の大きさがどの程度かはまた別の話ということになるのだ。

さらに、マーケティング的な言い方をすれば、20%と16%で4%改善と謳うか、20%×80%=16%として20%改善とするかでも、大きく印象は変わるだろう。

意地悪く考えれば、精神薬理学者のデイヴィッド・ヒーリーが指摘するように、微々たる効力しかない薬剤でも、資金力のある大企業がスポンサーとなって大規模臨床試験をすれば科学的な「エビデンス」を探し出せる可能性があることになる(『ファルマゲドン 背信の医薬』みすず書房)。

ヒーリーはこうした現状を「エビデンスにゆがめられた医療(Evidence-biased medicine)」と皮肉っている。

認知症はどうやって起きる? 揺らぐ仮説

かなり辛口なことを書いたが、私は脳内のAβを取り除くことでアルツハイマー病を治療する治療戦略を忠実に守り続けて開発されたアデュカヌマブは、いろいろなことを私たちに教えてくれるだろうと非常に期待している。

脳内にAβの集合体が蓄積することでアルツハイマー病が生じるという仮説は1992年に提唱されてから、アルツハイマー病研究の主流であり続けている。

しかし、このアミロイド・カスケード仮説には、うまく説明できない事実が存在し、反論する対抗学説もいろいろ提唱されている。

死後の病理解剖でアルツハイマー病が確認されていても、認知機能は正常に近い人が存在するという事実(修道女を対象とした長期追跡調査の研究がよく知られている)。

免疫を介してAβを除去する治療法でAβがほぼ除去されても認知機能が回復しなかった例があるという事実。

脳の萎縮が進む部位は、必ずしもAβが蓄積しやすい脳の場所ではないという事実。
Aβはアルツハイマー病という病気プロセスの最終結果であって、原因ではないという説。

Aβ集合体は脳の自己防衛であって、中途半端に分解すると病気が悪化するという説。

実験動物でのアルツハイマー病(遺伝子異常による)と高齢者の人間のアルツハイマー病は異なったメカニズムだという説。

そもそもアルツハイマー病は脳に現れた糖尿病の一種だという説。

Aβではなく、脳内に蓄積するリン酸化タウがアルツハイマー病の原因物質だという説。

等々──。

アミロイド・カスケード仮説に基づけば、Aβに対する抗体による脳内Aβ除去という治療法は正しい道筋である。

ということは、その患者に対する効果を科学的に知ることで、脳神経科学者たちはこれからもアミロイド・カスケード仮説に従い続ければいいのか、別の道を探究しなければならないのか、しっかりと判断できるようになると思うからだ。