「緑茶抽出物」が特発性肺線維症に有効か?
重篤な進行性の肺疾患である特発性肺線維症(IPF)の治療に、緑茶の抽出物が有効である可能性を示唆する臨床試験の結果が明らかになった。
この試験は、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のHarold Chapman氏らが実施したもので、「New England Journal of Medicine」3月12日号に発表された。
肺線維症とは、肺胞の壁が厚く硬くなり、肺が線維化してガス交換がうまくできなくなる疾患のこと。
全身に酸素が行きわたらず、呼吸不全で死に至る場合もある。肺線維症にはさまざまな種類があるが、中でもIPFは最も頻度が高いとされる。
なお、米国肺協会(ALA)のスポークスパーソンであるDavid Hill氏によると、「特発性」とは原因不明であることを意味するという。
今から10年ほど前までは、IPF治療は症状を抑える対症療法や、肺の機能を維持することを目的とした治療に限られていた。
その後、肺の線維化を遅らせるように働く2種類の治療薬が承認されたが、いずれもIPFの進行を完全に止めるものではなく、新しい治療薬が求められていたという。
今回報告された臨床試験は、緑茶に含まれるカテキンの一種であるエピガロカテキンガレート(EGCG)を用いた初期段階のもの。EGCGは強力な抗酸化作用を持ち、細胞や遺伝子の損傷を防ぐ働きがあると考えられている。
Chapman氏らは今回、肺生検を予定しているIPF患者20人を対象に、半数をEGCG 600mgを含有するカプセルを2週間にわたり毎日服用する群に、残る半数はEGCGカプセルを服用しない群に割り付けた。
その後、生検で採取した肺組織を分析したところ、EGCGカプセルを服用した群では、服用しなかった群と比べて肺の線維化に関与する特定のタンパク質の量が少ないことが明らかになった。
また、血液検査からは、EGCGカプセルを服用した群の方がIPFの疾患活動性が低いことも分かった。
今回のChapman氏らの報告について、前出のHill氏は「興味深い結果だ」としながらも、「今回の臨床試験は小規模かつ短期間のものであり、EGCGがIPF患者に有益であると証明されたわけではない」とし、大規模臨床試験の結果が待たれると述べている。
一方、非営利団体の肺線維症財団のチーフ・メディカル・オフィサーを務めるGregory Cosgrove氏は、IPFの治療法を評価する臨床試験では通常、呼吸機能検査が用いられるが、Chapman氏らは肺組織の変化を客観的に評価したことについて「極めてユニークで賢いやり方だ」と評している。
また、同氏は「今後の研究では、EGCGカプセルの服用により、IPF患者の呼吸機能が改善するかどうかも検討する必要がある」と述べている。
ただし、Cosgrove氏は「現時点では、既に販売されている緑茶抽出物を含む製品をIPF治療に用いることは勧められない」と強調し、「IPF患者には、承認された医薬品の代わりにそのような製品を使用するのは控えてほしい」と呼び掛けている。
今回報告された臨床試験は、政府機関および財団法人の助成を受けて実施された。また、論文の共著者のうち3名は、南サンフランシスコに本社を置くPliant Therapeutics社の関係者であった。同社はさまざまな線維性疾患の治療薬を開発している。(HealthDay News2020年3月11日)
2020-04-09 00:58:52