低用量アスピリンの使用で肝炎患者の肝臓がんリスクが低下か
B型肝炎やC型肝炎の患者は肝臓がん(肝細胞がん)の発症リスクが高い。
しかし、低用量アスピリンを毎日使用することで、そのリスクを有意に低減できる可能性があるとする研究結果を、米ハーバード大学医学大学院のTracey Simon氏らが「New England Journal of Medicine」3月12日号に発表した。
この研究では、スウェーデンの登録データを用いて、低用量アスピリン(160mg以下)の使用歴がなく、2005年7月~2013年12月の間にB型またはC型肝炎の診断を受け、2015年12月31日まで追跡可能なデータがある18歳以上の成人患者5万275人を特定。
このうち1万4,205人が、心筋梗塞や脳卒中の予防目的で低用量のアスピリンの使用を開始していた。
Simon氏らは、アスピリン使用の有無と、その後の肝臓がんや肝疾患に関連した死亡などのリスクとの関連について検討した。
中央値で7.9年にわたる追跡の結果、肝臓がんの発症率は、アスピリン非使用群での8.3%に対し、アスピリン使用群では4%にとどまっていたことが明らかになった。
また、アスピリンの使用期間が長くなるほど肝臓がんリスクの低下度が大きくなることも示された。
さらに、10年間の肝疾患関連死亡率も、アスピリン非使用群では17.9%であったのに対し、アスピリン使用群では11%であった。
その一方で、アスピリンの副作用である消化管出血のリスクは、アスピリン使用群と非使用群で同程度であり、10年間の累積発生率は使用群で7.8%、非使用群で6.9%であった。
ただし、Simon氏は「肝臓がんに対するアスピリンの作用機序については明確になっていない」と説明。
また、この研究でアスピリンが肝臓がんを予防することが証明されたわけではないことも強調する。
その上で、「アスピリンの抗炎症作用によって得られるのは、心血管の保護効果だけではない可能性がある」との見方を示している。
これまで、アスピリンの使用が肝臓の脂肪減少や炎症の抑制、瘢痕組織の形成抑制に関連したとする研究結果が報告されている。
これらは肝臓がんを含む肝疾患の兆候であり、Simon氏は「アスピリンが肝疾患の進行を抑制している、あるいは遅らせているのだろう」と説明する。
その一方で、Simon氏は、今回の結果は有望ではあるが、決定的ではなく、肝臓がん予防のためにアスピリンを使用し始めるのは時期尚早だと述べる。
そして、「アスピリンが患者に有益であり、副作用もないことを示すには、ランダム化比較試験での検証が必要だ」としている。
今回のSimon氏らの報告を受けて、この研究には関与していない米国がん協会(ACS)疫学研究部門のEric Jacobs氏は、「低用量アスピリン使用群で肝臓がんリスクの低下が認められたとする結果は興味深い」とコメント。
しかし、肝臓がんのリスク因子の一つである重度の肝硬変を有する患者に対しては、出血リスクを考慮してアスピリンがあまり処方されないことを例に挙げ、「低用量アスピリンを処方されていた人たちと処方されていなかった人たちの間で、元々の肝臓がんリスクに違いがあった可能性がある」と指摘している。
また、Jacobs氏はアスピリンには有益な面だけでなくリスクもあることを指摘し、「アスピリンの使用を検討している人は、まず医療従事者に相談してほしい」と呼び掛けている。(HealthDay News2020年3月11日)
2020-04-11 00:39:37