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アフター・コロナの世界・デジタル権威主義の台頭。日本でも始まるスマホの位置情報を元にした感染抑止

◆新型コロナ禍で不気味に台頭する「デジタル権威主義」

世界中で新型コロナウイルス感染症(COVIDー19)が流行し、危機感が高まっている。感染症拡散を防ぐためにさまざまな施策が行われており、そのうちいくつかは収束後も我々の社会に影響を残す可能性がある。その中で私が気になっているのは、デジタル権威主義の台頭と強化だ。

デジタル権威主義というと耳慣れない言葉かもしれないので簡単にご紹介する。ネットを始めとするデジタル技術を利用した権威主義を指す。権威主義とはなんらかの権威に従う統治形態であり、非民主主義全般を指すこともある。定義には幅がある。独裁主義や全体主義を含めるものもあれば、民主主義と、独裁主義や全体主義の間に位置するものという考え方もある。

最近の権威主義国家としては中国をイメージしていただくとわかりやすい。中国は共産党が強権を持つ社会であり、個人の自由や権利は制限されている。その一方で資本主義にも溶け込み、世界経済において重要な役割を果たしている。ネット化を進める一方、監視や検閲を強化している。

中国のデジタル権威主義には3つの柱がある。社会信用システム、監視、検閲を含めた世論操作である。この3つの柱は中国以外の現在の権威主義国家には多かれ少なかれ当てはまる。(参照:“世界70カ国で蔓延する政治家・政党による「ネット世論操作」。それらを支援する企業の存在”2019年10月19日、ハーバービジネスオンライン)

非常事態は監視と検閲の導入を加速する。2012年から2015年にかけて全米に広がった黒人人権運動「Black Lives Matter」(BLM)はミズーリ州やメリーランド州など複数の州で非常事態宣言や夜間外出禁止令が出て、州軍が出動するほどの大規模な暴動を引き起こした。暴動はニューヨーク、シアトル、ミネアポリスなど多くの都市に飛び火した。この時、SNS監視ツールが全米の警察に導入され、警察の監視能力は大きく前進することとなった。(参照:『犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術』(2017年8月10日、角川新書))

テロ、暴動、パンデミックなどに対して監視や検閲は有用なツールになるので導入と活用が進むのだが、その一方で市民の自由や権利を大きく制限することになる。一般的に自由と権利は、安全とは相反する。安全の重要性が高まれば高まるほど、自由と権利は制限されることになる。現在、世界各地で発せられている非常事態宣言は、まさに安全を最優先するという宣言に他ならない。

こうしたことを背景に世界各国で監視ツールの導入が進んでいる。

◆世界23カ国でスマホを利用した追跡を実施

コロナのような感染症の対策として有効なのは、迅速に感染した者を特定し、隔離することと、感染者と接触した者を特定し、検査、隔離することだ。誰でも持っているスマホで持ち主の位置をリアルタイムで把握し、健康状態をモニターすることは非常に有効である。また、接触した相手も特定できる。

VPN情報サイトTOP10VPNによれば、すでに23カ国がスマホを利用した追跡を行っている(情報は随時更新されており、数字は執筆時のもの)。たとえばアメリカのX-MODE社とTectonix社だ。Tectonix社はスマホをトラッキングしたデータを匿名化した上で(後述するように個人を特定できるという指摘もある)、ツイッターで公開した。(参照:“How the cell phones of spring breakers who flouted coronavirus warnings were tracked”2020年4月4日、CNN)

両社は人の移動状況のマップなどをツイッターで発信しているので、関心のある方はご覧になるとよいだろう。

マップからは個人を特定できないように思えるが、実際には特定可能だ。NewYork Timesは、2018年12月の記事で実際に位置情報だけから個人を特定してみせ、天気予報など多数のアプリが利用者の位置情報を取得し、他の企業に販売していたことを暴いた。多くのアプリ企業が当初はターゲティング広告を行うために位置情報を取得していたが、その後その情報と分析を販売するようになっているという。日本でも一時期話題になったフォースクエアも現在はマーケティング会社としてデータを販売している。

両社のクライアント(行政機関など)は必要に応じて個人を特定し、隔離、処罰などを行うことができるようになる可能性がある。感染症の拡散を抑止する手段としては効果的だが、常に自分の位置や会った人々を把握され、なにか問題が起これば隔離あるいは逮捕されることになる。

X-MODE社とTectonix社はメディアに露出し、プロモーション活動を行っている。これはかつて黒人人権運動の際に、SNS監視ツール各社がせっせとプロモーションを行っていたことを彷彿させる。今回は世界規模で導入が進むだろう。

X-MODE社とTectonix社はアプリ開発会社でありサードパーティーだが、南アフリカのように携帯電話会社そのものが政府にデータを提供するケースも出て来ている。さまざまな形で行政府がスマホから個人の行動を追跡する試みが進んでいる。(参照:“South Africa will be tracking cellphones to fight the Covid-19 virus”2020年3月25日、BUSINESS INSIDER)

EU一般データ保護規則(GDPR)など個人情報の扱いに厳しい規定のあるヨーロッパでもドイツ、イタリア、オーストリア、ベルギー、イギリスなどでこの動きは進んでいる。イギリスは主なモバイル通信キャリアから利用者の位置データなどを入手しようとしており、すでにその1社EE社と合意したと報じられた。(参照:“Phone location data could be used to help UK coronavirus effort”2020年3月19日、The Guardian)

ヨーロッパ各国のこうした動きに対して、EUの専門家グループはEU共通のアプリによってプライバシーを保護しつつ、感染抑止を実現するプラットフォームを提供するとしており、欧州データ保護監督官 (The European Data Protection Supervisor 、EDPS)は個別の国でプライバシー侵害などの畏れのある追跡を行うのは好ましくないとして、EU共通のアプリで対応すべきであると発表した。これが始まればEU加盟国の多くで追跡が始まることになる。携帯電話会社もこの動きに協力する方向のようだ。(参照:“EU to adopt unified policy on coronavirus mobile apps”2020年4月8日、ロイター、“European experts ready smartphone technology to help stop coronavirus”2020年4月6日、ロイター、“EU privacy watchdog calls for pan-European mobile app for virus tracking”2020年4月6日、ロイター)

今回の日本の緊急事態宣言の内容の多くには法的強制力はないが、こうした方法を用いて行動を監視できれば自粛せず旅行や飲み会などの集会を開いていた人々を特定、個人名を公開し個別に注意を与えることができてしまう。通信キャリアやLINEなどの協力を得てアカウントを一時的に凍結することもできるかもしれない。おそらく単なる自粛の「要請」よりも効果があがるだろう。

このアプローチで気になるのはプライバシーの侵害だけではない。実効性にも疑いがあることだ。アメリカ自由人権協会(American Civil Liberties Union, ACLU )は、現在アメリカおよび各国で行われている/行われようとしているスマホによる位置情報の活用の実効性について懸念を表明している。くわしくは原文をご覧いただくとして、GPSを始めとする測位方法を感染抑止の目的で使うには精度に問題があり、信頼に足るものにはならない可能性があるとしている。

仮にそうだとすると、実効性に問題があるにも関わらず個人情報を継続的に取得されることになり、コロナ収束後もそれが継続することになる。なお、感染の抑止に効果がなくても個人を特定はできることは、NewYork Timesが実演した方法を見ればわかる。

◆日本でも進む行動監視のためのデータ収集

こうした監視には常に2つの側面がある。社会的に必要であり有用である面と、自由と人権を侵害する側面だ。状況や使用目的によってどちらにもなり得る技術をdual use technologyと呼ぶが、その開発や使用には慎重でなければならない。そして過去の事例を見る限りでは多くの場合、自由や人権を侵害することに使われるようになる。

日本でも同様の事態が進んでいる。先日、LINEがコロナに関するアンケート調査を行い、2,453万件の回答を得た。これはLINEと厚労省が締結した「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」に基づくものであり、データは厚労省に提供された。(参照:“第1回「新型コロナ対策のための全国調査」の全回答データを厚生労働省に提供 第2回は4月5日より実施予定”2020年4月3日、LINE)、“厚生労働省とLINEは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結しました”厚生労働省)

ひとたび位置情報を入手できれば、そこから個人を特定することが可能である以上、感染者と接触した人物を特定し早期に隔離したいと考えるだろうし、できる以上はやりたくなる。多くの人を感染から防ぐために役立つのは確かなのだ。

”新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定締結の呼びかけについて“2020年3月27日|厚労省、“新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に資する統計データ等の提供の要請について”2020年3月31日|経産省)

こうした動きをしているのはLINEだけではない。代表的なIT企業であるヤフー、グーグル、日本マイクロソフト、LINE、楽天、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが参加した会合が持たれている。これらの企業は法令の許す範囲で政府にデータ提供などの協力を行うだろう。(参照:“コロナ対策、位置情報活用に潜む「法律の穴」“2020年4月10日、東洋経済オンライン)

もちろん、法令の許す範囲ということは、個人を特定できないデータということである。しかし、前の節で紹介した各国の事例でもそうだが、匿名化されたデータ、メタデータなどといっても実際には特定が可能であることは少なくない。

さらに当該企業と行政機関とのやりとりされるデータなどの内容が必ずしも明らかではない。もし本当に特定できないのならば、データを一般公開し、さまざまな研究者に益するようにもできるはずである。海外の研究者と比較研究すれば新しい有用な発見があるかもしれない。実際にツイッター社は停止措置を行ったアカウントのデータをネットで公開している。

ただし私はネットで公開すべきと言っているのではない。しない方がいいと考えている。なぜなら特定される可能性が高いからだ。私が関係者なら大規模アンケートで感染している可能性の高い人物とその人物と接触した人物を見つけたら、特定し隔離したくなるだろう。

感染しやすい行動を取っている人物がいたら常時行動を監視したくなる。そして、LINEを始めとする企業の協力があれば、それも可能なのだ。法令で定める個人情報でなくても特定できるのだから、協力する民間企業のハードルも高くない。緊急事態宣言の自粛要請に反するような問題行動が続くようならアカウントの停止を要請するのもよい手だろう。

非常事態には常にこうした隠れた危険が伴う。私は決して感染症の拡散を防ぐ手段として、これらを否定するものではない。だが、もし日本の主権が国民にあるのなら、どのような情報を収集し、なにをするのかを明示する必要があるのではないだろうか。

もちろんコロナを契機にしたデジタル権威主義の台頭は、スマホの位置情報だけではない。監視カメラを使った監視など他にも広がっている。こちらについても近くご紹介したい。


2020-04-12 19:07:17



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