9本の細い針で刺す通称「ハンコ注射」でお馴染みのBCGワクチン(Wikimedia Commons)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、結核を予防する効果があるBCGワクチンへの注目が高まるなか、世界保健機関(WHO)は12日付の報告で、「BCGワクチンに新型コロナウイルスの感染を予防する根拠はない」として、「摂取を推奨しない」という見解をまとめた。
BCGは、結核に対する免疫を獲得するために100年以上前に開発された生ワクチンで、もともと牛に感染する牛型結核菌の毒性を弱めたもの。
生後1歳までの赤ちゃんを対象に、細い9本の針を刺す「ハンコ注射」でお馴染みのもので、免疫機能が未発達の乳幼児は、結核菌に感染すると、全身に広がる粟粒(ぞくりゅう)結核や、結核性髄膜炎に至るリスクが高いことから、予防する効果が認められている。
日本は「結核が国民病」と言われた時代が長かったことから一般的だが、米国やイタリア、オランダなど予防接種制度がない国や、感染が減ったスペインやフランスでは中止している国もある。
予防接種のある国とない国で比較
A:BCGワクチンの予防接種制度がある国(黄色)、B:かつては制度があったが、現在はない国(グレー)、C:予防接種がない国(薄灰色)(ResearchGateより)
査読前の論文を掲載する臨床医学誌『medRxiv』と『ResearchGate』の2紙では最近、BCGワクチンの予防接種制度がある国では無い国に比べると、新型コロナウイルスの感染率と死亡率が低くなるという研究報告が掲載されたことから、一躍BCGワクチンに注目が集まるようになった。
英国民保健サービスのポール・へガティ医師や米国の複数の大学の研究チームは、3月9日〜24日までの15日間に欧州疾病予防管理センターが発表した症例報告のデータをもとに、人口100人あたりの感染率と死亡率を比較。
3月15〜24日まで15日間で比較
ヨーロッパ疾病予防管理センター(ECDC)が3月15日から24日までの15日間でまとめた欧州各国の感染率比較(ResearchGateより)
その結果、BCGワクチンの予防接種がある国では、100万人あたりの感染率が38.4だったのに対して、予防接種がない国では9倍以上の358.4だった。さらに死亡率を見ると、予防接種国では4.28にとどまったのに対し、未接種国では40と高くなったという。
国別に比較すると、予防接種があるポルトガルではこの間の感染者数は1万6000人以上だが、死者数は535人。制度がない隣のスペインでは感染者数は16万9000人を超え、死者数は1万7000人以上。
さらにワクチン接種国のアイルランドでは、感染者数9655人、死者数334人(致死率3.5%)であるのに対し、予防接種制度が無くなった英国では感染者数8万9554人、死者数1万1346人と、致死率は12.7%と高くなった。
2020-04-13 22:17:17