糞便中にも排泄される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、やがて下水に流れ込む。
感染が蔓延している地域と、なんとか流行を免れている地域では下水中のウイルス量に大きな差が出ており、ロックダウン(都市封鎖)が成功しつつある地域ではウイルス量も激減している。「そうしたデータを疫学上もっと活かすべきだ」という声は、ますます高まっているようだ。
■ロックダウン解除の目安は…
5月2日午後3時現在、世界で340万人を超える感染者と23万9,000名超の死者が確認されている新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)。この恐ろしい感染症の撲滅と並行し、世界ではロックダウンの段階的解除を伴う経済活動の再開も重要な課題となっている。
新型コロナに関しては、日々新しい感染者・死者などの情報が数字で表され、グラフもまめに更新されているが、巷には「何をもってロックダウンを解除しても大丈夫と確信するのか」「安心を示す目安や数値を知りたい」といった声があふている。
そんな中で米国、オーストラリア、オランダ、フランスなどの公衆衛生学や感染症疫学の研究チームや企業が今、積極的に行っているのが下水の調査だ。
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■糞便中に排泄されるウイルス
調査は、地域の人口を踏まえたうえで下水中に含まれる新型コロナウイルスの量を計測し、量の増減や周辺地域との差を比較するもの。作業はシンプルでコストもPCR検査よりはるかに安い。
メリットは、ウイルス量の変化でどの地域の流行が深刻で、より多くの医療品や防護服/防護具が必要なのかを的確に判断できること。さらに進んで、ロックダウンの段階的解除の目安となる基準が生まれ、再びの感染拡大にも敏感に反応することだ。
かつてイスラエルやインドでは、ポリオ(急性灰白髄炎)について同様の調査を行い、その数値の変化で流行~ピーク~終息の判断を行っていたという。
■「PCR検査だけでは不十分」
マサチューセッツ工科大学の研究者らが設立した「バイオボット・アナリティクス(Biobot Analytics)」も、全米各地から調査の依頼が舞い込んでいる一社だ。
雨や雪による増水を調整するなど課題は多いが、代表者は「その調査はじつに多くの情報を与えてくれます」と話し、強い自信をみなぎらせている。
たとえば3月のある時期、PCR検査により446名の新型コロナウイルス感染が確認されていた地域で下水の調査を行った彼らは、少なくとも2,300人、多く見積もれば11万5,000人が感染していると推定していた。
これは、多くの住民が抗体検査に参加したニューヨーク市やロサンゼルス市からのちに報じられた、「感染者は公式発表の55倍」「4人に1人がすでに感染」といった驚きの結果に通じるものがある。
■「秋の再びの流行を予感」
アメリカではノロウイルスやA型肝炎について、そしてオーストラリアでは違法薬物規制強化の一環として、コカイン、メタンフェタミンなどについて下水の調査を続けてきた。
下水から検出されるウイルス量の推移を、感染症疫学に活かさない手はないとするアリゾナ大学のチャールズ・ジャーバ博士。彼が率いる調査チームは、米・疾病予防管理センター(CDC)へのデータ提供を始めたところだ。
そのジャーバ博士は「秋に再びの流行を見るのではないかと強く懸念しています」と述べている。解除時期の判断を誤ってはならないということなのだろう。
2020-05-03 06:32:17