近年、動物の体内に存在する細菌叢(マイクロバイオーム)への関心が高まっており、人間の腸内に生息する腸内細菌が人々の気分や食生活を左右することも知られています。その一方で、全ての動物が豊富な細菌と共存しているわけではないようで、ほとんど腸内細菌を持たない動物も科学者の想像以上に多いことが判明しているそうです。
マイクロバイオームは食品の消化、栄養素の吸収、免疫システムなど、人間の健康をサポートする重要な存在です。近年では微生物郡を測定・分析するツールが進化し、動物界の至るところにマイクロバイオームが存在し、動物と共存していることも明らかになっています。そのため、一部の研究者は「動物」の範囲を、その動物が保持するマイクロバイオームにまで拡張することを提唱しているそうです。
2011年の夏、生物学研究者のジョン・サンダース氏はペルーの熱帯雨林に入り、運んできた蛍光顕微鏡を使って付近に生息するアリの調査を行ったとのこと。多様な種類のアリを捕まえたサンダース氏は早速蛍光顕微鏡で観察を行い、いくつかのアリの腸内で「微生物の銀河のような」と形容するほど密度の高いマイクロバイオームを発見しました。
ところが、サンダース氏が捕まえたアリのうち、3分の2ほどの種類では腸内にマイクロバイオームがほとんど存在していなかったそうです。腸内には食物やその破片、腸の細胞壁などがあったものの、動物の腸内で共存しているものだと考えられてきた腸内細菌が、ほとんど見当たらなかったとのこと。
以下の画像が、サンダース氏が捕獲して分析を行ったアリの種類と、その腸内に存在する細菌を示したもの。光っている部分が細菌を示していますが、多くの細菌がまるで銀河のように光り輝いている種類もあれば、ほとんど腸内細菌が見られない種類のアリもいることがわかります。
サンダース氏が収集したアリを研究室に持ち帰り、体内に存在する細菌の量を定量化したところ、体内の細菌が豊富な種類のアリは細菌量が少ない種類のアリと比較して1万倍もの量の腸内細菌を持っていることがわかりました。これらのアリを人間サイズに拡大すると、一部の種類では1ポンド(約450グラム)の細菌を持っている一方、別の種類ではコーヒー豆ほどの重さの細菌しか持っていないということになります。「これは本当に大きな違いです」と、サンダース氏は述べています。
2017年にサンダース氏はこの発見に関する論文を発表しており、その中で草食性のアリは腸内細菌が多く、肉食性や雑食性のアリは腸内細菌が少ない傾向が見られると述べています。しかし、草食性のアリであっても腸内細菌をほとんど持たない種類もいたとのことで、食生活と腸内細菌量の関連性は一貫していなかったとのこと。
2020-05-09 01:55:33