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曲がるPC「ThinkPad X1 Fold」は夢と執念の塊、大和研究所で訊いた開発秘話

レノボ・ジャパンが10月から国内販売を開始した「ThinkPad X1 Fold」。年初にCES 2020(米ラスベガス開催)で披露されて以来、世界初の画面折りたたみ式PC(フォルダブルPC)として常に期待の高かった最新モバイルPCだ。今回は、このThinkPad X1 Foldを開発した同社大和研究所の面々にコダワリたっぷりの"開発秘話"を訊くことができたので、その内容をお届けしよう。 レノボの折りたたみPC「ThinkPad X1 Fold」、日本で10月発売! 今回お話を伺ったのは、レノボ 大和研究所でThinkPad X1 Foldの開発の全体を統括した塚本泰通氏(部長, Distinguished Engineer)、製品コンセプトを担当した藤井一男氏(部長, Distinguished Engineer)、電気まわりを担当した渡邉大輔氏(システムイノベーション, システムデザインエンジニアリング)、メカを担当した潮田達也氏(マネージャー, 機構設計 システムFF統合技術)の4名の方々だ。 ○完成までに5年、はじまりは「開発者の夢」 そもそも塚本氏によれば、このThinkPad X1 Foldの開発がスタートしたのは、さかのぼること5年も前のことだったそうだ。発端は、スマートフォンやタブレットが当たり前となり、これまでPCの担ってきた役割のかなりの部分も代替されはじめていた流れの中で、大和研究所の開発陣が抱いた「これからのパソコンをどうしていくのか」という想いだったという。 例えばスマートフォンのように手軽に持ち歩けるのに、パソコンのようにリッチでクリエイティブなマシンはどうすれば可能になるのかと考えた。ちょうどその頃、付き合いのあったサプライヤー(LGディスプレイ)が「曲がるディスプレイ」を開発しているという話が舞い込んできた。これが、パソコンを折りたたんで小さくしてしまうというThinkPad X1 Foldのアイディアへとつながった。しかしながら、その時はまだ「開発者の夢でしかなかった」というアイディアだ。 「おおまかに私(塚本氏)のところで1年、藤井のところで4年、それぞれオーバーラップもありながら5年かかりました。5年前、まずは"夢"があって、それをどうやって会社のイニシアチブにしていくかということから。そしてエグゼクティブへのプロジェクトのプレゼンをするのですが、これは技術的に可能なのか、市場はあるのか。課題を乗り越えて何とか開発にGoサインが出て、ようやく曲がるパソコンのプロトタイプを制作したのですが、ここまでで既に3年かかっていました」 晴れて製品化されたThinkPad X1 Foldは、1枚のタブレットのような全面ディスプレイ(13.3インチの有機EL)の本体に、5コアのIntel製CPUや高速SSD、USBやWi-Fi 6といったインタフェースも完備した、れっきとした最新スペックのWindows 10パソコンだ。W299.4×D236×H11.5mmサイズの本体は、ちょうど画面を半分に折りたたむことで7インチ弱のタブレットサイズ(W158.2×D236×H27.8mm)になり、ハンドバッグに入るレベルまで小さくできる。13.3インチをそのまま立てかけて別途キーボードを接続する使い方はもちろん、大画面タブレットPCとしても使えるし、「く」の字にたたんで下側にキーボードを載せれば、まるでミニノートPCだ。 ○新しいPCのため、新しい開発を積み重ねる この完成したThinkPad X1 Foldを見て最も驚くのは、もちろん「ディスプレイが曲がる」ことだが、その曲がる部分に段差はおろか、"しわ"がほとんど確認できないことにも気付く。メカを担当した潮田氏によれば、開発で最も苦労した点を挙げるとすれば、この"しわ"なのだったとという。曲げれば当然"しわ"の課題が出てくるのだが、「ThinkPadを冠する製品で、"しわ"を見逃すわけにはいかない(塚本氏)」という理想が掲げられた。しかし現実は厳しく、エンジニア同士で膝を突き合わせ、機構を変えたり、部材を変えたり試行錯誤を繰り返し、"しわ"なく曲げるディスプレイの実現には3年もの期間をかけた。 もうひとつ、ThinkPad X1 Foldの曲げるときの機構で特筆すべきは、実際に触れていても心地よさを体感できる"ヒンジ"だ。ThinkPadノートのヒンジの例に漏れず、トルクカーブと軌跡の最適化もなされている。また、これもThinkPadの例に漏れず、"拷問テスト"とも表現される信頼性テストは、「3万回の開閉でも壊れません」(潮田氏)という徹底されたものだ。 ヒンジは、ノートPCスタイルでの使用も想定することから、開いたときと閉じた時だけでなく、その中間でも無段階で曲がり、きちんと保持できないといけない。複雑な機構となるが、スレート状の本体を実現するためには、大型化は避けなければならないという相反する目標が掲げられた。開発途中の試作ヒンジを見ると、製品化されたものに比べパーツ点数は少なく、サイズは大きい。試作が進むにつれ、(コストや量産が心配になるほど)パーツ点数が増え仕組みは複雑化する一方で、サイズは小型化していった。何度も試作を繰り返し続けた結果、完成品では、快適な開閉と、本体の額縁がフラットになるほどのコンパクトさを両立した。 また曲がるディスプレイに関連して、ThinkPad X1 Foldにはあまり知られていない「世界初」がひとつある。それがペン入力のサポートだ。ペン入力のためにはディスプレイにタッチセンサーの層を1枚挟み込む必要があり、しかも筆圧感知などペン入力センサーの技術的にもこの層には出来る限りの厚さが欲しい。そうするとディスプレイの厚みは増してしまい、曲げにくくなってしまう。なので、曲がるディスプレイへのペン入力の実装は非常にハードルが高いのだ。これを解決したのが、ペン入力ではおなじみのワコムだ。ThinkPad X1 Fold用に、限りなく薄く曲げやすい、格子状のタッチセンサーシートを提供した。開発陣も「ワコムさんならでは」と絶賛する。 "初"といえば、CPUに「Lakefield」(Intelの開発コードネーム)を採用するPCとしても、恐らくThinkPad X1 Foldは日本で初めての製品となる。LakefieldはIntelが今年の第2四半期に投入したモバイル向け製品で、特徴としては、I/O関連のシリコンダイの上に、CPUやGPUレイヤーのシリコンダイを重ね、さらにその上にメインメモリも積層した3レイヤー構造により、実装面積が極めて小さいSoCになっているということ。そしてCPU部分が、性能の高い第10世代Intel Core(Ice Lake世代)のSunny Coveと、省電力に特化したAtom系のTremontコアを組み合わせた特殊な構成というものだ。具体的に、ThinkPad X1 Foldには熱設計が7Wで物理5コアのLakefield、Core i5-L16G7が搭載されている。 このLakefield、性能と電力を両立しながら小さな面積に実装できる利点はあるが、反面、発熱源が小さな面積に集中してしまい、さらに最大の熱源であるCPU/GPUダイの上にメモリが重ねてあるため、熱処理の難易度が高い。言うまでもなく、手に持って使う時に本体に熱い部分があっては不快な使い勝手にもなってしまう。この課題は、内部基板の小ささからするとかなり立派なヒートパイプと、"寄木細工"から発想を得たという基板への組み込みでチップの裏表両面から冷やす独特な冷却機構によって解決にこぎつけた。 さらにThinkPad X1 Foldは、そもそも小さなボディにこれらの複雑なコンポーネントを組み込みながら、タブレットスタイル時の持ちやすさなどを考慮して、本体の重心はもちろん重量配分のバランスが破綻せずまとまっている。バッテリのセルやスピーカー部材、それらの配置など細かなところまで、こちらも妥協せずに繰り返し試作を積み重ねた成果だ。当然、内部配線もイチから考え直した。「特にディスプレイ配線などはかなり変わった引き回しです。(既存製品の設計を参考にした度合の大きい)初期プロトタイプから、コンポーネントの配置も配線も、大幅に変更する必要がありました」(電気担当の渡邉氏) ちなみに、細心の重量調整と熱処理を施しつつ、専用カバースタンドが(重さと排熱で不利な)本革製というのが少し驚く。当初は本革にするつもりはなかったそうだが苦心して採用。出来上がったThinkPad X1 Foldを見ると、スペックに相応しい所有感、ラグジュアリー感を醸しており、結果としてこれは英断だったと言えそうだ。重ねていうと、カバーのキックスタンドの裏面、積極的にアナウンスしてはいないというが、ここ、実はアルカンターラ生地があしらわれている。「頻繁に触れるし、見える部分なので」ということだが、なんと贅沢な……。 ○業界の視線をフォルダブルPCに向かわせた功労機 CES 2020の開催時、ディスプレイの曲がるフォルダブルPCを出展したのは、実はレノボだけではない。ThinkPad X1 Foldの他にも会場では一見似たような仕組みを備えるフォルダブルPCが発表されていた。またIntelもCES 2020で新しいPCプラットフォームとしてフォルダブルPCへの取り組みを発表しており、その製品化のためにメーカー各社への開発サポートを進めていると説明していた。 筆者は当時の状況から、よくあるようなIntelが主導するデザインガイドのようなものがあり、業界全体の流れに後押しされてThinkPad X1 Foldが出てきたのだろうと推測していた。「誰が最初」という話は不毛なのだろうが、少なくともThinkPad X1 Foldは大和研究所の開発者の夢の産物であった。 夢を現実に近づけるために、ディスプレイのパートナーであるLGと議論を重ね、ワコムの助力を得て、最適なプロセッサを搭載するためにIntelとのエンジニアリング協力を推し進めた。いつか誰かがやったとしても、ThinkPad X1 Foldがなければ、フォルダブルPCの実現はもっと遅くなってしまっただろうし、完成度の水準の高さもなかったかもしれない。フォルダブルPCがユーザーにどの程度受け入れられるのかの評価はまさに現在進行形だが、ThinkPad X1 FoldがフォルダブルPCの金字塔であるという価値は揺るがないだろう。 ○将来のX1 Foldの姿、派生モデルや"X1 Carbon"化 最後に、新製品としてThinkPad X1 Foldが発売されたばかりの時期なので、まだ早いのかもしれないが、この後に続く派生モデルの展望についても伺ってみた。というのも、今のところThinkPad X1 Foldは仕様を見ても明らかなとおり"高級機"の扱いであり、"フォルダブルPC"を今後のパソコンの新しい姿とするには、より入手しやすい"普及機"の存在も必要なのではないか? と筆者は思ったからだ。 今後について大和研究所の開発陣は、まずはThinkPad X1 Foldを、「よりThinkPad X1 Carbonに近づける」ことに取り組んでいるという。特にThinkPadといえばキーボードの優秀さというイメージがあることから、「フォルダブルPCであっても、キーボードはThinkPadに近づけたい」そうだ。現在の付属ワイヤレスキーボードも悪くはないと思うが、確かに、「ThinkPad トラックポイント キーボード II」ライクなキーボードに進化するとすれば、より魅力的だ。 普及機についてはどうだろう。ThinkPad X1 Foldの製品コンセプトを主導した藤井氏は、価格を下げるためには、現在のコストをかけた機構や部材を、いかに簡素化していくかの挑戦になるという。本革素材などをより安価なもので代替するなど単純な話はあるが、快適に曲がることなど、後退させてはならないユーザー体験はある。より必要なのは技術革新だという。例えばヒンジ部分について、機構の見直しや、パーツ点数の削減でよりシンプルにできないかという研究はしていくという話であった。 また、現在は13.3インチのサイズだが、用途に応じたサイズバリエーションも否定されていない。ニーズの高まりがあれば、さらに大きくしたクリエイティブ用途や、さらに小さくしたモバイル用途のThinkPad X1 Foldが登場する可能性もあるだろう。 フォルダブルPCの製品化という金字塔を打ち立てたThinkPad X1 Fold。曲がるスマートフォンがそうであったように、定番化への道筋は決して平坦ではないだろう。それでも、いまだかつて見ぬ新しいデバイスというものに心を躍らせることが無ければ、これまでだってパソコンは進化してこなかったはずだ。ThinkPad X1 Foldは、この後に続く製品にも期待し、ぜひとも応援し続けていきたいと心が躍る製品だったことは間違いない。