米国では感謝祭(Thanksgiving)も終わり、既にホリデーシーズンの時期に突入しているが、新型コロナウイルスの影響もあって例年に比べて商戦は分散した。都市部はロックダウンされているといった事情もあり、2020年の出足は非常に緩やかとされている。商戦期におけるPC市場の行方が分かるのはもう少し先だが、今回はWindowsとPCが2021年にどうなるかを一足先に見てみたい。
「October 2020 Update(20H2)」のシェアは順調に伸びる
2021年の話題に入る前に、まずは現状のWindowsの話題から入っていこう。恒例のAdDuplex Reportの最新版にあたる11月版がリリースされており、同月末時点での最新のWindows 10のバージョン別シェアがまとめられている。
前回のレポートとの差分を比べていただきたいが、なぜか「November 2019 Update(1909)」のシェアが36.4%と大幅に回復する一方で、「May 2020 Update(2004)」は37.6%とほぼ横ばいになっている。最も増えたのは「October 2020 Update(20H2)」で、前回の1.7%から8.8%と一気にシェアを伸ばしており、このペースでいけば前回記事で予測した「2020年内に10%台半ば」のシェアまで獲得するのはほぼ確実とみられる。
May 2020 Update(2004)は最初期の立ち上がりに時間がかかった反面、一度ロールアウトされると「May 2019 Update(1903)」以降の上昇カーブとほぼ同等のペースでシェアを拡大させている。
AdDuplexのレポートでも触れられているが、October 2020 Update(20H2)は10月後半の一般向けリリースから既にこの上昇ペースにならっており、割とスムーズな移行を実現できると考えられる。
なお、Neowinによれば、November 2019 Update(1909)のシェアが11月のタイミングで急拡大した理由は、May 2019 Update(1903)からの強制アップデートがMicrosoftによって実施された結果だという。
問題となるのは、こうした流れの中で次の「21H1」となる大型アップデートがどのような形で出てくるかだが、「21H1は実質的にスルーの扱いとなり小規模なアップデートに留まる」「21H1に新製品が発表される」という風に関係各位で見解が異なっている。
前者については、以前の「Microsoftが2021年秋を見込むWindowsの一大プロジェクト『Sun Valley』と『Cobalt』」というレポートでも触れた、ZDNetのメアリー・ジョー・フォリー氏による「『21H2』として2021年後半に登場する『Iron』リリースに注力するために『21H1』は簡略化される」というものだ。
一方で、記事中の「Sun Valley」というプロジェクトについて何度か報じているWindows Centralのザック・ボーデン氏は「2021 is shaping up to be a big year for Windows 10」という記事の中で次のように触れており、シングルスクリーン版の「Windows 10X」が2021年春に出る可能性を示唆している。
It's fair to say that if Microsoft keeps to its internal schedules and plans, Windows 10 is in for a big year next year. Perhaps it'll be one of the biggest in recent memory, with a new version launching with Windows 10X in the spring of 2021, and a massive refocus on Windows 10 in the fall of 2021. Fans have been asking for this for a while, and it appears Microsoft is listening.
一般の多くのユーザーにはWindows 10Xよりも、21H1に相当する大型アップデートがどのようなもので、どのようなタイミングで配信されるかが気になる点だと思う。オリジナルのWindows 10そのものは21H1で大きな手が加わることは、ボーデン氏とジョー・フォリー氏の両氏ともに予想していないため、アップデートのペース的にはOctober 2020 Update(20H2)に近いものになるのではないかと筆者は考える。
帰ってきた「Project Astoria」
皆さんは、「Project Astoria」を憶えているだろうか?
2015年のBuild 2015で発表された、MicrosoftのUWP向けの開発プラットフォーム構想で、いわゆる「モダンアプリ」に留まらず、AndroidからiOS、さらには旧Win32アプリケーションまで含めてUWPとしてパッケージ化してMicrosoft Store(当時はWindows Store)でのアプリ配布を可能にするというものだ。
詳細は当時のレポートを参照してほしいが、AndroidアプリをWindows 10上に構築されたサブシステム上でそのまま動作させる「Project Astoria」、iOSと互換APIを用意してUWPとしてのビルドが可能な「Project Islandwood」、そしてWin32アプリをパッケージ化してUWPとして配布させる「Project Centennial」だ。
結局のところ、Project Centennialが完全な形ではないものの提供され、Project AstoriaとProject Islandwoodは中止(Project Islandwoodについては、中止発表のタイミングでオープンソース化が行われている)、実際に提供されたのはWebアプリケーションをUWPアプリ化する「Project Westminster」のみという状況だった。
さて、そのProject Astoriaだが、5年の時を経て帰ってきたのかもしれない。ボーデン氏のレポートによれば、Microsoftは2021年秋のタイミングでAndroidアプリをWindows上で動作させるソフトウェアベースのソリューションを提供する計画だという。
「Project Latte」の名称で呼ばれるこのプロジェクトでは、Androidアプリの開発者が一切のコード変更なしに既存アプリをWindows 10上で動作可能なMSIX形式のファイルでパッケージ化させるという。
ボーデン氏によれば、Project Latteは「WSL(Windows Subsystem for Linux)」に近い仕組みで実装されるとのことで、サブシステム上で各種APIへのアクセスをWindowsへと中継させることで、あたかもAndroidアプリがそのままWindows上で動作しているように見える。この話を聞くだけならば、以前に計画されていたProject Astoriaそのものであり、「帰ってきたAstoria」と言っても問題ないだろう。
これが何を狙ったものなのかは不明だが、Microsoft自身が「Surface Duo」というAndroidデバイスをリリースしている経緯もあり(なお、この1400ドルで発売されたSurface Duoは、Black Fridayセールなどを合わせて1000ドル未満で購入可能だ)、Android資産の一部をWindowsエコシステム上に取り込むことが必要だと考えた可能性がある。
PC上でスマートデバイス向けのアプリを動かす試みは、既に他のプラットフォームでも進んでおり、直近ではmacOS Big Surが動作するM1搭載Mac上でiOSアプリのネイティブ動作が可能になっている。
現在のところ、Mac App Storeに配布されているiOSアプリ限定だが、今後ある程度はMac対応が広がる見込みで、認証系アプリなどPCでの利用が必要にもかかわらずスマートフォン用アプリしか提供が行われていなかったり、開発者がネイティブ環境でのアプリの動作テストを行ったりする際に大いに役立つものと考えられる。
2021年初頭に登場するSurfaceデバイス群
1年を通じて、Windows 10にいくつかの重要な変化が起きるのが2021年というストーリーだが、今回はもう1つ「2021年に登場するMicrosoftのハードウェア」に触れたい。
Surfaceシリーズの製品群だが、2020年のタイミングではアップデートされなかった「Surface Pro」と「Surface Laptop」にそれぞれ新製品が登場するという。
韓国系のリーク情報でcozyplanesというTwitterのユーザーアカウントが次のような投稿を11月26日に行っている。
「1950」「1960」「1961」は開発コード名で、それぞれ「Surface Laptop 4」「Surface Pro 8」「Surface Pro 8 with LTE」だと同氏は説明する。外観的な変化は現行製品と比較していないため、プロセッサなどの内部スペック向上が新製品の特徴だとされる。
ボーデン氏が自身の情報源を基に報じたところによれば、両製品のリリース時期は2021年1月中旬で、ProモデルではIntelのIris Xeを搭載した第11世代Coreプロセッサを採用、Laptopモデルでは引き続きAMDプロセッサが採用されるという。
なお、製品自体はサイレントローンチとなり、特に発表などは行われず、既存製品から順次移行していく形になると思われる。
2020-12-01 20:19:23