先日、「2021年のWindows 10とPCの関係」というレポートで触れたが、2020年におけるWindows 10の“飛躍”が比較的おとなしかった一方で、2021年から2022年にかけては幾分か大きなトピックが控えている。
1つは同レポートでも紹介している「Cobalt」「Sun Valley」「Latte」といった一連のプロジェクトで、前2者が2021年に到来するWindows 10の「OSリフレッシュ」に関するもの、後者が「Project Astoria」再来をイメージするような“Androidアプリ”をWindows上で動作する仕組みに関するものだ。
おそらく、最も大きな話題はCobaltとSun Valleyになるが、それを補完するようなトピックが2020末のタイミングで複数出てきている。今回はそれらを紹介していきたい。
October 2020 Update(20H2)は順調に増加
本題に入る前に、まずは恒例のAdDuplexの最新レポートから見ていこう。
前回11月末の集計から1カ月が経過し、「October 2020 Update(20H2)」のシェアは8.8%から13.6%まで増加して「2020年内に10%台半ば」の予測水準に入っている。「May 2020 Update(20H1)」もシェアが3%近く上昇しており、結果的に直前となる2つのアップデートのシェアが、そのままこの2つの新しいアップデートにスライドしてきた形となった。
正直いうと、October 2020 Update(20H2)の上昇ペースは若干だが予想よりも立ち上がりが遅いのだが、ここ最近大型アップデート(機能アップデート)でトラブルが続出して配信ペースが遅れていたMicrosoftから考えれば、今のところ目立った致命的なトラブルが少ない。
現在、Microsoftはサポート期間延長などを含め、新型コロナウイルスにおける企業のIT部門の負担を軽減する施策を進めているが、今後しばらくはこういったトレンドの中でバージョン推移が緩やかになると思われる。同時に、2021年は冒頭の説明にあったように大型アップデートの内容が“幾分かチャレンジング”なものになると予想され、October 2020 Update(20H2)が比較的長期の“安定バージョン”としてシェアを維持するのではないかと予想している。
Arm版Windows 10でx64エミュレーションがついに! 21H1がターゲット?
今回の話題の1つめ、「x64 Emulation for Windows 10 on ARM」だ。2020年12月10日(米国時間)にWindows Insider ProgramのDev Channel向けに配信された「Build 21277」の新機能で、これまでx86系では32bitバイナリしかエミュレーション動作できなかったArm版Windows 10において、64bitバイナリのx64アプリケーションの動作が可能になる。
Microsoft Store経由で配布されるアプリでは、アプリのビルド時点でターゲットデバイスにArmを加えることで両バイナリを含んだ状態でマルチ環境での同時動作に対応できるが、そうでない既存のWindowsアプリケーションや最新ゲーム、ツールなどにおいて64bit動作のものが存在する。
同社によれば、現状で既存のアプリケーションのほとんどが32bitエミュレーションで対応できると説明していたが、最終的に64bitバイナリの動作に対応する。
なお、この話題は2019年末にはうわさとして既に出ており、1年越しでの準備期間を経てようやくプレビュー版のリリースに至った。
当初のうわさでは2020年の早期に登場してテストが行われ、2021年前半にリリースされる「21H1」のタイミングで正式導入となっていたが、新型コロナウイルスの影響なのか、結局2020年末のこのタイミングまでずれ込むことになった。
今回のプレビュー版エミュレーション機能は、当該デバイスからDev Channelに参加することで導入できるようになる。
プレビュー版ではあるものの、Insider Previewでは既にMicrosoft Storeで配布されているx64アプリケーションを導入してそのまま動作させることができる。動作しない、あるいはパフォーマンスに問題があるというケースも想定されるため、その場合はWindows Feedback Hubを通じて報告するよう求めている。またパフォーマンスを最適化するので、Qualcomm AdrenoのGPUドライバーを最新のプレビュー版とするようアドバイスしている。
解説によれば、Google Chromeなどの動作にメモリを必要とするアプリケーションでは、x64エミュレーションで動作することでメモリ空間が4GBからさらに開放されるため、パフォーマンス上のメリットが大きいという。
この他、Adobe Creative Cloudのようなアプリケーションがx64エミュレーションの恩恵を受ける典型で、M1搭載MacBookが話題となる中で、Windows 10 on Snapdragonデバイスの活用場面を増やすものとなるだろう。この機能の市場への正式な投入タイミングについては言及されていないが、おそらく当初のうわさ通り「21H1」がターゲットになると考えている。
「M1 Mac」で「Arm版Windowsアプリ」が動作しない謎
11月にリリースされ好評を博しているAppleの「M1 MacBook」の各製品だが、プロセッサがIntelからArmベースの「Apple M1」に変更されたことで、仮想化ソフトウェアや既存の一部ツールが動作しないなどの問題も発生している。
システムの移行期間なので当然といえば当然なのだが、省電力とパフォーマンス改善幅が大きい点とのトレードオフとなる部分だ。M1導入効果が大きいと判断している声が大きいことから、以前に比べてもスムーズにM1などAppleが開発するSoCへの移行が進むのではないかと考えられる。
さてM1搭載Macだが、Microsoftでは早速Microsoft 365のUniversalアプリ版をリリースしており、Office MacアプリケーションのApple Silicon対応が進んでいる。Apple Silicon版Mac環境であれば自動アップデートを有効化しているか、あるいはMac App Store上にアップデートが登録されているので、M1版アプリケーションへと移行できる。
現状で対応するのはOutlook、Word、Excel、PowerPoint、OneNoteの5製品だが、Teamsについても現在鋭意M1対応を進めているとのことで、そう遠くないタイミングでリリースされるだろう。実際に使っていると分かるが、Teamsのビデオ会議の負荷は特に高い。おそらくM1対応のUniversalアプリがリリースされることで、最適化が進むと考えられる。M1 MacBookをバッテリー利用しながら作業するユーザーには朗報だろう。
また、プラットフォームがx86から外れてしまったことで、動作に支障をきたしているのが仮想化ソフトウェアだ。MacではParallelsが代表的だが、“Windows”の動作が可能なParallels 16のテクニカルプレビュー版が配布されている。
9to5Macによれば、現状のテクニカルプレビュー版ではx86(x64)版Windowsのインストールは不可能とのことで、Arm版を導入する必要がある。ただ多くが知るようにArm版WindowsはOEM以外でのライセンシングが行われておらず、一般ユーザーが直接入手する手段がない。そこで前段でも登場したWindows Insider Programの登場となり、何らかの形でInsider PreviewのISOを入手してインストールする形となる。
前述の記事で気になるのが「ARM32 applications do not work in a virtual machine.」という表現だ。現状でArm32をターゲットにしたUWPアプリのバイナリがどれだけ存在するのか不明だが、M1 Macでは64bit版は動作しても32bit版は動作しない。
理由が不明だったが、興味深い投稿がTwitter上にあった。つまり、M1自体がArm32ビットバイナリの動作を許容していないため、Arm版Windows 10においてもArm32バイナリのアプリは動作しないという話だ。
デバイスが手元にないので現状は検証できないが、64bit移行の強制が割とスムーズに実施できるAppleに比べ、レガシーアプリケーションが多数残るMicrosoftでは対応バイナリの幅が広く、その差がM1 Mac上でのWindows 10動作で差を生んでいるという。このあたり、改めて検証機会があったら試してみたい。
「Windows Feature Experience Pack」とは何か
今回の話題の最後は「Windows Feature Experience Pack」だ。2020年11月30日に「Windows Feature Experience Pack 120.2212.1070.0」というものがWindows Insider ProgramのBeta Channel向けに突然配信されたが、唐突すぎて疑問を感じた方もいるかもしれない(筆者もその1人だ)。
Windows Feature Experience Packというキーワード自体は長らく存在しており、本連載でも2020年1月に紹介しており、話題自体も2019年には何度か聞いていた。当初は「Windows 10へのサブスクリプションモデル導入の伏線か?」のように考えていたこの機能だが、現状はまだ実験的段階にあると考えられる。
Blog上での説明によれば、今回のタイミングで提供されるのは「スクリーン上での切り抜きツール(取り込んだ画面をファイルエクスプローラ上の指定場所に直接保存できる)」と、「2-in-1デバイスのポートレートモードにおける分離(ソフトウェア)キーボード」などだ。
基本的には、Windows 10の大型アップデート(機能アップデート)とは無関係のタイミングで機能追加を行うためのもので、現状で追加機能が限られているのも、配信テストという位置付けによるものだ。
実際、大型アップデートの一般向け配信が始まった直後のBeta Channelは、ターゲットビルドがまだ既存のもので、次の大型アップデート(今回のケースでいえば21H1)には移っていない。そうした配信チャネルに突然機能追加アップデートだけが降ってきたという流れで、ある意味で不可思議だ。
既に、最近のWindows 10のバージョンには何らかの形でWindows Feature Experience Packが含まれているとのことで、「あえてなぜこのタイミングで?」と意図するところは不明だ。
推測としては、Windows 10の標準機能を一部切り離し、それを望むユーザーは適時追加導入可能な仕組みを導入するという考えだ。先ほどの「サブスクリプション制導入の布石」という考えと合わせ、2021年以降にウォッチすべき事案の1つなのは間違いない。
2021-01-04 02:15:33