4KTVが贅沢品から標準へと移行していく中、8KTVもだんだんと市場に出てきました。おうち時間が増える中、たくさん見るならTVもアップグレードしてもいいのかな…と思ったり思わなかったりしますが、LGの有機EL 8KTV、Signature 8K ZXは200万円以上します。今手を出す価値があるのかどうか、米GizmodoのCatie Keck記者がレビューしていますので、どうぞ!
8KTVってもういろんなメーカーが発表してますが、現状はやっぱりまだほとんどの人には高嶺の花です。それに、今すでに十分美しい4KTVとか有機EL TVがたくさんあって、ある程度普通に買える値段になってるので、8Kの価格を正当化するのは難しいです。しかも8Kのコンテンツはまだまだほとんどありません。それに8Kもそのうち安くなっていくんだろうと思うと、今ここで手を出す理由はますます消えていきます。
なので私は、LG Signature OLED 8K ZX(以下Signature 8K ZX)のレビューにどういう心構えで臨むべきかわかりませんでした。価格は私がレビューした77インチで2万ドル(日本価格208万2500円)、88インチだと3万ドル(同305万6625円)になります。でもこの巨大スクリーンと一緒に数週間過ごしてみて、私のTV体験は完全にスポイルされてしまいました。少なくとも同レベルのものが、私自身生理的に(または経済的に)許容できる値段で出てくるまでは、私は美麗8Kへの満たされない欲求を抱え続けることになりそうです。
LG Signature OLED 8K ZX 77インチ
200万超えかぁ…
まず明らかにとんでもないところからいきましょう。2万ドルというのは、TVの価格としてはひどいです。一応コンシューマー向けディスプレイなんですが、このTVが選択肢に入ってくるような「コンシューマー」とは異様にお金持ちであるか、どこかの王族であるか、そんなとこでしょう。
そんな車みたいな価格のディスプレイがどんなものかっていうと…そりゃもう、画質はものすごくくっきりしてクリアで、画面に手を伸ばせばそこに映るものに触れそうなほどです。いやーお金さえあれば買えるんですけどねー。でもお金だけあれば買うかっていうとそういうものでもないんですが、まあとにかく、欲しいけど手が出ません。
コンテンツが全然ない
今回米Gizmodoではレビュー機とともに、バレエ『くるみ割り人形』の8Kビデオが入ったUSBメモリを受け取りました(Signature 8K ZXにはUSBポートがいくつかあります、入力について詳細は後述)。今のところ他に8Kコンテンツってないので、このバレエビデオが頼りでした。YouTubeにもわずかながら8Kコンテンツがありますが、NetflixやDisney+、HBO Maxといったメジャーなストリーミングプラットフォームにはありません。HBO Maxに至っては『ワンダーウーマン 1984』のリリースでやっと4Kに対応、他社に追いついたところなんです。4Kコンテンツがまだまだ目新しい今、映画の作り手がわざわざ8Kで撮る理由もありません。
ほんとに8Kで動画を撮りたがる人はいません。お金がかかるし、まだ買う理由を付けられないような特殊な機材も必要になります。ストリーミングするなら帯域も4K以上に必要だし、デバイス側に求められるスペックも高くなって、多くの人にとってハードルが上がります。今の段階で8Kコンテンツを作ることは合理的じゃないんです。なので、8Kディスプレイを買ってもいいと思える程度に8Kコンテンツが揃うまで、かなりの年数がかかるかもしれません。その時点でも8KTVはかなり近距離でないと美しいディテールが失われるとか、いろいろ要注意です。
そんな制約を理解しつつ、もし私がこのSignature 8K ZXを買える状況だとしたら…僭越ながら、ぜひ買いたいんです。本当に息を呑むような映像が見られます。LGは正確な色域についてコメントしませんでしたが、DCI-P3とほぼ同じだと言ってました。LGはピーク輝度についてもノーコメントなんですが、この点はまったく心配無用で、とくにビビッド設定にすれば完璧です(ビビッドで色を正確に出すには少しキャリブレーションが必要ですが、このTV買う人は多分プロのキャリブレーターにお金を払えるんでしょうね)。OSは素直な作りのwebOSで、アプリ操作も問題ありませんでした。ただ私はコンテンツ操作に関しては、普段使ってるApple TV 4Kを使うことが多かったです。まあ、2万ドルのTVを買うときにOSを理由にする人もなかなかいないでしょう。
低解像度でも見惚れる美しさに
(裕福な)ゲーマーの方々は、背面のHDMIポートが4つ全部、4K120Hzに8K60Hz、エンハンスドオーディオリターンチャネル(eARC)、可変リフレッシュレート(VRR)、自動低レイテンシモード(ALLM)対応なのもうれしいことでしょう。USBポートも3つ側面にあります。
Signature 8K ZXでのゲームは最高でした。『レッド・デッド・リデンプション 2』は8Kの恩恵を最大限活用はできてませんが、ゲームプレイは美しいです。というか正直、あまりの没入感にかえって気が散るというか、ゲームプレイを放り出して風景とかゲームのディテールに見入ってしまうことしばしばでした。他のコンテンツに関しても、ほぼすべてのものが美しく見えます。2000年代のTVドラマ『Real Housewives of Orange County』までもがやたらキレイなんです。もちろん『Tenet』も『Soul』も素晴らしかったですが、やっぱり8Kの『くるみ割り人形』にかなうものはありません。ほんとにリアルで、バレリーナが画面の中にいるんじゃなく、もはやうちのリビングルームで踊ってるみたいでした。
その美しさの理由には、有機ELなのでそれぞれの画素が自発光していることと、従来の8bitではなく10bitでの色表現により10億色以上を再現できることが挙げられます。そしてもちろん8Kってことは、4Kの4倍、HDの16倍シャープな画像を作れるわけです。
でもこのSignature 8K ZXのマジックはアップスケーリングにあります。8Kコンテンツがほとんどない現在から近未来にかけて、8KTVの良し悪しは「低解像度コンテンツをいかに美しくアップスケールできるか」にかかっています。この点LGは、ディープラーニングを使った専用エンジン・α9 Gen3 AI Processor 8Kを使い、低解像度コンテンツもきれいにアップスケールしています。LGの技術がどれくらい良いかは他の8KTVと並べて比べない限り確信は持てないんですが、さしあたり4K以下のコンテンツをこのTVで見てみた限り、問題なく表示できていました。
ハードウェアもOK
あとはデザインについてですが、77インチモデルはフレームにも同梱のミニマルな脚にも変な飾りとかギミックがないという意味でほぼ完璧で、壁掛けも可能です。88インチモデルは、付属の金属の四角い空洞で「彫刻のよう」とされるスタンドに載せないといけません。77インチの脚も正しく設置するとすごくワイドで、一番幅広い部分は60インチ(約1.5m)くらいあります。私はもうちょっとコンパクトに置きたかったので、やや内側寄りに脚を取り付けちゃったんですが、これやると所定のバランスより不安定になるので、LGの人からダメ出しされました。2万ドルも出して、TVが倒れたらどうしようってドキドキしながら見るのはもったいないですしね。他の巨大ディスプレイもそうですが、TV台に置くとしたらそのTV台もものすごく巨大じゃないといけません。
LG独自のマジックリモコンに関しては、最初は好きじゃありませんでした。私はこの手のものだと、PlayStation Moveとかストリーミングデバイスの小さなリモコンに慣れてるからです。でもいちいちスクロールするんじゃなく、ピンクのカーソルをどこにでも好きな場所に動かせるので、だんだんと気に入ってはきました。
あとはTV本体に関してひとつ言えることは、すごく重いってことです。100ポンド(約45kg)をちょっと切るくらいです。なので設置するときは、大人ふたりが全力で動かさないといけませんでした。
誰が買うべき?
で、このTVは誰のためのものでしょうか? 多分私じゃないのは確実です。新車が買えるようなお金をTVにつぎ込むのは、ちょっと考えにくいです。でもSignature 8K ZXは、まだコンテンツが存在しないにもかかわらず8KTVを買っちゃうような人がターゲットなので、私が買う気にならなくても別にいいんだと思います。
とはいえ、このレビュー機をLGに送り返す悲しさったらありませんでした。化け物みたいなお値段ですが、その理由は使ってみてだいたい…だいたいわかりました。
まとめ
・プレミアムな8K有機EL TVで、77インチモデルは2万ドル(日本価格208万2500円)、88インチモデルは3万ドル(同305万6625円)。
・ゲームに使うと、夢のようでした。
・Signature 8K ZXでは古い低解像度コンテンツもきれいに見られましたが、『Tenet』とか『Soul』はさらに美しかったです。
・8Kコンテンツはほとんど存在しませんが、サンプルの8K映像はたしかにほんとにリアルで息を呑みました。
2021-01-06 23:45:49