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なぜiPodは成功したのか 20年経った今あらためて考える

今年はiPodが登場して20年という記念すべき年。大学生だった筆者は、iPodを使いたいがために真っ白いポリカーボネートのiBook G3を手に入れMacに入門しました。

その後2005年に、ケータイとアップルの記事を書くジャーナリストとして独立しました。2007年にケータイとアップルが融合したiPhoneが誕生したことは、個人的なキャリアからすれば奇跡的な出来事だったとふりかえることができます。

今でこそ、こうしてたくさん取材させていただいているウォッチャーになっていますが、日本でのアップルの長い歴史からすれば、私はまだまだ若輩という意識が強いのもそのためです。長年のウォッチャーと言うよりPCからのスイッチャー(アップルの過去のキャンペーン)だったわけですから。

●相性が悪いデザイン思考とリモート授業

2020年4月から、iU(情報経営イノベーション専門職大学)で、「イノベーションプロジェクト」という看板授業を担当してきました。このなかでチャレンジングだったのは、

1. フルリモートでグループワークを通じてスタートアップのアイデアを作り上げること。 2. フルリモートでデザイン思考の授業をすること。

の2点でした。

1点目は言わずもがな、密なグループワークを、初対面すらしていないメンバーで、オンライン越しに実行していくことは、大学生でなくても難しいテーマと言えます。

アイデアをグループで出し合ったり、プロトタイピングやテストの作業をどうやってオンラインで実現するか、なかなか悩ましいところでした。

Zoomでグループごとのブレイクアウトセッションを作ったり、デジタルでアイデアをキーボードや手書きで蓄積できるツールを使ったり、Adobe XDでプロトタイプを作ってもらったり、といった試行錯誤でなんとか乗り切ったというのが実際でした。

●iPhoneを組み立てられるか?

そんなデザイン思考のプロセスは、潜在顧客へのインタビューからアイデアを作り出し、プロトタイプを作って再びインタビューと顧客の意見に寄り添いながらサービスや製品を作っていくことになります。

そこで学生たちの頭に浮かぶ疑問は、「これでiPhoneが作れるのか?」という話です。

デザイン思考の例として説明しやすいのは、個人的にはiPodだと思っています。しかし現在の大学生にとって、CDやMDの話をしても通じないのと同じように、iPodの話もまた通じない話題です。現役大学生が生まれていなかったし、物心つくころにはすでにiPhoneが存在していたわけで、iPodの例をiPhoneに変えて、デザイン思考のメリットとデメリットを説明するようにしています。

たしかに、話をシンプルにすれば、顧客はiPhone以前のスマートフォン、すなわち小さな画面と極小のフルキーボードが付いるBlackberry的なデバイスにあふれており、あのキーボードにして「メールが打ちやすい」と評価されていました。

そうした環境で学生がインタビューを繰り返し、アイデアを作り出したら本当にiPhoneが生まれたのか? と言われると、正直なところ難しかったのではないか、と思います。

顧客は、そもそも反応が鈍かったタッチパネルにいい印象を持っていなかったでしょうし、そうした技術的な進歩のアイデアを顧客に求めることは難しく、学生自身がそうした技術に精通し実装する力がなければなかなか思いつかないだろうと思うからです。

●「iPodシンドローム」

確かに大学生ならiPhoneを知らない人はいないでしょうが、非常に高度で複雑な技術で成り立っている製品ゆえに、なかなか大学生がデザイン思考の練習で思いつくには難しいテーマだと思います。iPodの方がまだ可能性がありそうだ、と思うのはそうした理由からです。

iPodはデジタル音楽プレイヤーとして登場しましたが、当時効果だった小型ハードディスクを組み合わせるという思い切ったアイディア以外、テクノロジー的にはパーツとして目新しいものはホイールを採用したコントローラーだったと言われています。

顧客のペイン、つまり、

・ CDやMDを大量に持ち歩かなければいろいろな音楽が聴けない ・ 編集しなければ自分の好きなセレクトを楽しめない

という不便さ、問題点に着目し、ハードウェアとソフトウェアで解決した結果がiPodでした。

しかし、そうした製品の成功を作り出そうとすれば、ハードルがいくつも上がってしまいます。

歴史を紐解くと、その後アップルは音楽の楽しみ方を「デジタルミュージック」へ転換させ、iPodの本質は後に導入するデジタル音楽配信の成功のための布石となりました。iPodの根底にあるコンセプトはソニーのウォークマンであり(アップルも認めるところです)、今風に言えば「ポータブルオーディオのデジタルトランスフォーメーション(DX)」だったのです。

iPodの成功を再現しようとすれば、優秀な問題解決を含むハードウェアだけを作れば良い、という結論にはならないことがおわかりになると思います。

デザイン思考でiPod的なものだけを作り出してもそれだけでは成功しない。これがジレンマであり、iPodの成功の再現にとらわれすぎて成功を逃す「iPodシンドローム」の根源だと思います。

●「壮大な野心」が先か?

確かにiPodは象徴的なハードウェアなのですが、iPodのコンセプト、「ポケットに1000曲」を実現するためには、iTunesというソフトウェアが必要で、ユーザーは、iTunesにCDから音楽を取り込んだり、プレイリストを作ったりする必要がありました。

もちろん、CDからMDに1曲ずつセレクトした楽曲を、再生時間をかけてダビングする手間を考えれば、数倍速で取り込み、マウスで自由にプレイリストを入れ替えられるiTunesは優秀なソフトウェアによる音楽体験でした。もっとも、アップルはiTunesを、SoundJam MP買収を通じて獲得しているのですが……。

音楽サービスでもう一つの成功事例は、Spotifyです。スウェーデンのスタートアップが、現在では2億4000万人を超えるユーザーを抱える世界的な音楽サービスとなりました。

彼らの壮大な野心は「みんなに音楽を」。この短いフレーズがSpotifyの行動指針となり、顧客やパートナー、アーティストがこぞって共感する旗印となって、今日までの成長を作り出す原動力となっていました。

個別にサービスを作り出す力か、壮大な野心か。同時に追いかけることが難しい2つのテーマの双方を意識しながら、2021年度の授業を展開していくことになりそうです。