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EHTプロジェクト、M87銀河のブラックホールの極近傍で電波の偏光を観

史上初のブラックホール直接観測を成し遂げた「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)プロジェクト」は現地時間の3月24日、5500万光年彼方の楕円銀河「M87」の中心にある太陽質量の約65億倍という超大質量ブラックホールの極近傍で、電波の偏光をとらえることに成功したことを発表した。

ブラックホールが周辺物質の性質を激変させていることをアルマ望遠鏡が観測

EHTプロジェクトは、世界中の300名以上の研究者が参加しているビッグプロジェクト。日本からは、代表を務める国立天文台水沢VLBI観測所の本間希樹所長を筆頭に、20名以上が参加(日本チーム「EHT-Japan」には、日本の研究機関に所属する外国人研究者も含まれる)。また日本の機関としては、EHTコンソーシアムに参加している国立天文台をはじめ、工学院大学、総合研究大学院大学、東京大学、統計数理研究所、東北大学、八戸工業高等専門学校、広島大学の計8つの研究機関・大学などが関わっている。

今回発表された論文は2本あり(EHTでは通算7本目ならびに8本目)、どちらも米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された(1本目、2本目)。

EHTプロジェクトは、「超長基線電波干渉法」という技術を用いて世界中の8つの電波望遠鏡をネットワーク化して、地球サイズの超巨大電波望遠鏡を仮想的に構築し、その性能でもってブラックホールの観測を実施した。EHTプロジェクトの仮想電波望遠鏡の解像度は20マイクロ秒角という高さを有し、これは月面に置かれたゴルフボールの大きさを地球から測定できるほどだという。

そしてその解像度を使ってM87の中心の超大質量ブラックホールを観測。2019年4月10日に、ブラックホールを直接撮影した画像を公開し、「ブラックホール・シャドウ」と呼ばれる暗い領域と、その周囲の明るいリング構造を明らかにした。EHTプロジェクトは2017年にM87を観測して以来、そのデータをより詳しく解析し続けており、M87ブラックホール周辺の大部分から届いた光が、偏光していることが発見された。

偏光した光は余分な光を取り除くと、重要な情報を得ることが可能だ。例えていうなら、裸眼ではギラギラとまぶしい水面でも、偏光サングラスをかけると澄んだ水なら水面下まで見通しやすくなるのと似たようなものだ。その理屈は、偏光サングラスのレンズが、光(電磁波)の振動方向が特定の方向にきれいにそろった光だけを通し、目に届く光を整理することで見やすくしているのである。

天体観測でも同じことがいえ、偏光サングラスのレンズのようなフィルターを用いると、特定の方向に偏った光(偏光)だけが通り抜けるようになる。その結果、そこで起きている現象を鮮明に教えてくれる情報だけを抜き出せるようになるのだ。

今回の観測では、偏光からブラックホール周辺に磁化された高温のガスがあることが判明。そして、ブラックホールの極近傍という、宇宙でも1、2を争う極限環境における磁場の構造(磁力線)を描き出すことに成功した。

磁場からは貴重な情報が得られる。中でも、磁場がブラックホールの周囲でどのように振る舞うかを調べることは、ジェットのメカニズムを理解するための極めて重要な手がかりとなるのだ。

活動的なブラックホールは、強大な重力で周囲の物質をむさぼる一方で、一部の物質を遥か遠方にまで吹き飛ばす。M87ブラックホールの場合は、ジェットは約5000光年の長さにおよび、M87銀河から大きく飛び出しているほどだという。

その仕組みは謎に包まれており、いくつもの疑問が存在する。銀河から飛び出して遥かに伸びるほど強力なジェットが、どのようにして噴出するのか。飲み込まれる物質と吹き飛ばされる物質はどう選別されているのか。飲み込まれる物質と吹き飛ばされる物質はぶつからないのか。疑問は尽きないが、今回の偏光の検出は、こうした謎の解明に迫るための大いなるヒントとなったという。

偏光画像を用いた理論解析が行われた結果、ある仮説がもっともらしいということがわかった。その仮説とは、ブラックホールへとつながる螺旋状の磁場が物質を押し返せるほど強く、物質の落下とジェットの噴出が交錯しないよう交通整理もしているというものである。ブラックホールの最内縁ともいえる極めて近傍の磁場構造が確かめられたことで、磁気流体力学ジェットの標準モデルが支持され、それがこの仮説がもっともらしいという結論に至った形だ。

なおEHTプロジェクトは、現在もネットワークの技術的アップグレードを進めており、新たな電波望遠鏡が加わり続けている。こうしてより性能の上がった仮想電波望遠鏡による観測で期待されることの1つとしては、東アジアの望遠鏡群を含めた多波長電波観測により、「ブラックホールスピン」への制約がつけられることがある。

ブラックホールは、質量、スピン、電荷の3つのパラメータで表され(直接的に「重力の強さ」というパラメータはない)、そのうちのスピンとはブラックホールの自転を表す。意外かも知れないが、ブラックホールは元となった大質量星の自転を引き継いでいるのだ(それも元の大質量星よりずっと小さくなるので、角運動量保存の法則で超高速回転している)。

なぜブラックホールスピンを観測的に決定しようとしているのかというと、ブラックホールの“輪郭”ともいえる、そこを超えると光すら脱出できない「事象の地平面」を証明することなどが目的とされる。現時点では、事象の地平面はあくまでも理論的なものであり、実際に観測されたわけではない。

一般相対論的に、ブラックホール時空は質量とスピンから求めることが可能だ。質量は、連星系のブラックホールであれば伴星の運動から求められるが、スピンの観測は非常に難しい。ブラックホール近傍での相対論的効果の確認が重要となるからだ。そのためにも、より詳細に観測できる解像度が必要なのである。

また、ネットワークに加わる電波望遠鏡の数が増えることで、ブラックホール周辺の磁場構造もより正確に分析できるようになる。それにより、ブラックホール近傍の高温ガスの物理も詳しく観測できることが期待されている(降着円盤の観測も、ブラックホールスピンの測定手法として考えられている)。