4月20日(米太平洋時間)に開催されたアップルのオンライン発表会は、予想以上に多くの製品が揃った。
iPhone 12/12 miniへの新色パープルの追加、紛失防止タグのAirTag、Apple TV 4Kのアップデート、それにApple M1プロセッサを搭載する24インチiMacとiPad Proの投入だ。中でもiMacは予想外に大きなアップデートだった。
それぞれのアップデート内容は、別途各製品ごとのレポート記事を参照いただきたいが、イベント全体を見渡して見えてくることもある。それは、Appleシリコン移行後のアップル製品ラインナップの姿だ。
一貫性のあるデザインと体験
発表された製品群には、それぞれに注目点はある。実際の製品を入手できた際には、それぞれ深く掘り下げていきたいが、外観デザインが刷新されたiMac、それに昨年発売されたiPad Airを見ると、iPad Proに始まるデザイン言語の適用を進めていることがわかるだろう。
M1が搭載されたMacBook AirやMacBook Proは従来のデザインを踏襲しているが、今後はMacBook Proの上位モデルが刷新されることが予想される。
昨年からディスプレーが14インチになった狭額縁ベゼルのMacBook Proが噂されているが、ノートPCの設計トレンドから考えても上位モバイル機はディスプレーの大型化が進む傾向がある。ディスプレーサイズが13インチから14インチに拡大するなら、同時に外観も変更になってもおかしくはない。
また以前からそうだったように、ディスプレーの質に関して一定水準以上を確保することで、映像体験の質を揃えようという意図も強く感じられる。
例えば昨年発売のM1搭載MacBook Airはディスプレーの色再現域がDisplay P3になった。最大輝度はMacBook ProやiPad Proには及ばないものの色再現域は同じ(それまではsRGB)だ。最大輝度はコストや消費電力に直結するため、製品の位置付けや価格帯によってまちまちだが、それでもHDRらしい表現を行えるくらいの品質は担保されている。
今回の発表では、Apple TV 4Kを接続したテレビでも意図した映像表現に近づけるため、iPhoneのカメラを測定機として利用するカラーキャリブレーション機能まで盛り込む徹底ぶりだ。
デザインディテールと“体験の質”へのこだわり生み出すiMacの魅力
話をいったん、iMacに絞り込もう。
24インチ版iMacを見て感じたのは、iPadにおけるiPad Airの位置付けとの近似性だ。iPad Airがそうであるように、24インチ版iMacは必要十分以上の高性能と、ディスプレー、マイク、スピーカー、カメラなどへの並々ならぬこだわり、デザインディテールへの細かなこだわりなどが読み取れる。
有線LANのコードが見えないようにと電源アダプタ側にコネクタを設定し、本体と電源の間は美しくデザインされたコード1本で接続。方向性もなく軽く近づけるだけで装着できるACインレット(マグネットは強力で従来の電源インレットと同じ力をかけなければ抜けないよう設計されている)など、単に薄く美しく仕上げられているだけではない配慮がなされている。
単純にコンピュータのスペックだけを見れば、24インチ版iMacはDisplay-P3に対応した色再現性の高い4.5KディスプレーにMac miniを内蔵し、USB 3.0のポートを追加した“だけ”が、実のところここまで色再現性の調整まで行われて出荷されている、高精細なディスプレーというのも見つからない。
しかし、たとえあったとしても全体のデザインや一体化されたシンプルな使い勝手が高品位ディスプレーとセットになって、さらに20万円以内で購入できるのだからお買い得に感じる。
マイクやスピーカーの音質に対するこだわりも、他メーカーにはないほどのものだ。最終的な判断は製品版で下したいが、ここ数年に発売されてきたアップル製品のオーディオ品質と、M1に内蔵されている最新の信号処理プロセッサの性能を考えれば、極めて高い品質を備えるだろうことは想像にがたくない。
当然、これは内蔵カメラの品質にも言える。iMacの27インチモデルに内蔵されていた1080P対応カメラはセンサーサイズが拡大され、より優れた画質が実現されていた。この新型センサーは24インチモデルに引き継がれているが、M1に内蔵された最新のイメージ信号処理で、さらにより高い画質と機能性どへとアップグレードされている。
こうした体験の質の統一と改善は、徹底したiPhoneの開発資産活用からもたらされている。
徹底したiPhone資産の活用
アップル製品の要はなんといってもiPhoneだ。もっとも多く販売され、もっとも多くのユーザーがいる。故にiPhone向けに新しいSoCが設計され、SoCの新機能とセットでOSやアプリケーションが開発されている。
OSとSoCをタイトに統合した開発は、例えば音声処理、スピーカー音質の改善、動画処理、カメラの映像処理、セキュリティ機能、AI処理などさまざまなジャンルに及ぶ。このiPhone向けに生み出される数々の価値を、iPhone以外にも適用することで、一貫性のある体験の質をもたらしている。
先に挙げたiMacの内蔵カメラ画質、スピーカーやマイクの音質などはまさにその典型的な例だ。それらはM1に内蔵されている最新のISPで信号処理される。
実はこれまでのインテルMacでも、T2チップを搭載することでiPhone向け開発資産が活用されてきた。Tシリーズと名付けられているが、Aシリーズとの共通性が高くiPhoneでの開発成果を応用しやすい。
それがM1となって最新世代の信号処理プロセッサが活用可能となり、より深く高い品質でその優位性をMacにも適応できるようになったわけだ。
iPad Proで注目は12.9インチのディスプレー
ところでiPad Proに関しては、基本的なハードウェア構成に大きな変更はなく、白いMagic Keyboardが用意されたことや2TB版の追加などのトピックはあるものの、正常進化の範疇だと考えられる。もちろん、その向上幅は大きい。
A12Z BionicからM1の間には二世代分の進化がある。単にCPU、GPUが高速化された以上に、Neural Engine、ISPなどのAI処理や信号処理の能力向上もあり、結果としてカメラの品質や対応アプリケーションの速度、あるいは処理品質に小さくはない差が出るはずだ。
それらは実機テストで明らかになっていくだろうが、個人的にはドルベースの価格が11インチモデルで据え置かれたのに対し、12.9インチモデルは100ドル上がっている点に注目したい。
この違いは新しいディスプレー技術であるミニLEDディスプレー(Liquid Retina Display XDR)を採用したことによる価格上昇と考えられる。念のために申し添えると、100ドル“も”上がったのではなく100ドル“しか”上がっていないことだ。
液晶パネルはその方式上の特性から、暗部の階調表現を正確に行うことが難しく、またバックライトの漏れ光が必ず出るため正確な色再現も難しい。
アップルのPRO Display XDRや高級テレビなどでは“ローカルディミング”という手法で、部分的にバックライトを絞り込むが、この手法には大きく分けると三つの意味がある。
ひとつは単純にバックライトを絞り込むことで漏れ光を抑え、黒が明るく浮いて見える現象を抑えられることだ。
iPad Pro 12.9インチモデルは2500もの領域分割で制御されるので、絞り込みや突き上げ(全体に暗い部分が多い映像のとき、高輝度部分だけ明るくすること)による弊害を感じることはないだろう。眼球内の乱反射もあるため、画素分の分割制御がなくとも十分な効果が得られる。
次に暗い部分ではバックライトが暗くなるため、本来なら“真っ白”に近い表示領域で暗部の表現を行うことも可能になることで、これにより暗部の再現性が低い液晶の根本的な問題を改善できる。単に黒が浮かないというだけではなく、明暗のグレースケールで色合いが統一され、階調表現もより細かくなるのだ。
そして三つ目は消費電力を抑えられること。なぜなら必要ない画面領域のLEDは暗くなる(電流が少なくなる)からである。だからこそ、全白で1000nits、部分的なピークでは最大1600nitsという映像制作のプロ向けにも使える高輝度が実現できている。
これだけのディスプレーが100ドルの価格上昇だけで採用できるということに驚かされる。
期待されるミニLEDディスプレーの展開
もちろん、調達量が多いからということもあるだろうが、あらゆる製品ジャンルで一貫性のある体験を提供しようとしている近年のアップルを考えるならば、おそらく多様な製品でこの技術を採用しようとしているのではないだろうか。
ミニLED技術は、単体のLED素子よりも遥かに小さな(今回採用しているミニLEDの場合で1/120の体積)LEDを基盤上に規則的に整列させバックライトにするというもの。今回の場合、1万個のLEDが敷き詰められ、それを4個単位で駆動する(よって領域分割数は2500になる)。
この技術が安定したものならば(しているからこそ採用しているのだと思うが)、まだ見ぬMacBook Proの上位モデルや27インチiMacの後継、あるいはPRO Display XDRの将来的なアップデートでの採用に期待できる。
いや、数年後を見据えるならば、iPhone上位モデルを除き、中心価格帯以上の製品は、全てミニLEDで揃えるかもしれない。ミニLEDディスプレーは薄型化においてはOLEDに対して不利だが、消費電力とコスト面では有利になると思う。
特に大型のディスプレーにおいてはOLEDよりも優先して採用されるのではないだろうか。
筆者紹介――本田雅一氏 ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。
2021-04-21 19:37:19