AppleはiOS 14.5からプライバシー強化機能「App Tracking Transparency(ATT)」を有効化させましたが、これは既存の広告システムに大打撃を与える可能性があるとみられています。多くの広告企業やアプリ開発企業がATTで収益が減少するのではないかと懸念していますが、一方でAppleの広告プラットフォームは、ATTによってライバルより優位に立つ可能性があると報じられています。
Appleは2020年、ユーザーの興味・関心・行動に基づいた広告表示を行う「ターゲティング広告」において、広告識別子・IDFAの利用をユーザーの許可制にすると発表しました。IDFAの利用によってユーザーの行動を広範に追跡し、興味・関心を突き止めることが可能であるため、IDFAの利用がユーザーによって拒否されると広告の効果が弱まると考えられています。このため、発表には多くの企業が懸念を示しました。
Facebookを始めとする多くの企業が反発したものの、2021年4月27日、iOS 14.5の発表と共についに上記の機能が有効化。
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ATTと呼ばれるこの機能は、プライバシー保護が目的とされています。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナルは、ATTの有効化によって、Appleの広告ビジネスがライバルよりも優位に立つ可能性を報じています。
Appleの広告システムに精通した人物によると、ATTにおいてユーザーがIDFAの利用を拒否すると、サードパーティーのプラットフォームを介して広告を購入する企業は、キャンペーンに関する洞察を3日後にしか受け取ることができないとのこと。また受け取る情報は「広告表示後に行動を起こしたユーザーの総数」といった集計のみとなるそうです。
一方、Appleが提供する広告枠を購入した広告主はユーザーの行動について、より多くの情報を受け取ることになります。具体的には、ユーザーが見た広告の種類や、広告が表示されたキーワードなどを、リアルタイムで知ることが可能だと情報筋は述べています。
Appleの広報担当者は、Appleが自社プラットフォームの優位性を高めようとしているという考えを否定しており、サードパーティーのプラットフォームで購入された広告を制限しているのは、これらのプラットフォームがAppleのポリシーを回避し、ユーザー追跡を試みるためだと述べています。Appleの広告プラットフォームは大きなグループごとのターゲティングを行うため、サードパーティーのような追跡を行わず、プライバシーが保護されるというのがAppleの理論です。
この「大きなグループごとのターゲティング」については、海外ニュースメディアのMSPoweruserも言及しています。
Appleの広告ポリシーには、Appleが「アプリやデバイスから収集されたデータ」と「広告測定の目的でサードパーティーから収集されたデータ」とをリンクしないことが明言されています。一方で、アカウント情報・ダウンロード履歴・購入履歴・サブスクリプション履歴、そしてAppleの広告プラットフォームによって配信される広告の情報については、5000人以上のユーザーで構成される「セグメント」に基づくターゲティング広告で利用されると記されています。
Appleの「セグメントに基づくターゲティング」は、Googleが発表し非難されている広告API「FLoC」と似ているとMSPoweruserは指摘。たとえ大きなグループ単位であってもユーザーの情報を収集し、広告の配信に利用することは、プライバシー侵害や差別につながるという考えがあります。
なお、Appleの広告ビジネスは主にアプリストアの検索広告で構成されており、ATTによる影響をほとんど受けません。またAppleは広告提供手段の拡大を計画しており、App Storeの「オススメ」カテゴリで利用できる新しい広告枠をテストしているといわれています。広告枠を増やすことでAppleの広告収入は増加しますが、広告枠が増加しなくとも、プライバシーポリシーの変更にとってApp Storeの広告枠の需要が高まれば、広告単価の上昇が予想されます。
Appleは独占禁止法違反の疑いで調査が行われていますが、上記のプライバシーポリシーの変更が独占禁止法違反に該当すると主張するのは難しいとのこと。あくまで追跡が許可されるかどうかは、ユーザーの選択に委ねられているためです。
2021-04-28 02:25:35