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認知症の治療薬承認 「課題は投薬開始時期の判定の難しさ」と専門医

FDA(米食品医薬品局)は7日、米製薬会社バイオジェンと日本の製薬大手エーザイが共同開発したアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」を承認したと発表。認知症に効果が期待される新薬の臨床研究は、2019年の時点でわかっているだけでも100以上の薬の治験が世界で進められていた。日本では、認知症の進行を抑える薬が4種類使われているが、それらが承認されて以来、約10年、新しい薬は承認されていない。

【表】アルツハイマー型認知症の新薬開発状況はこちら

そんななか、日本に先行する形でアメリカで薬事承認された今回の認知症新薬。専門家によると、これまでの薬とは異なる効果を持つという。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』で「アデュカヌマブ」について昨年専門医に取材した記事をお届けする。

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認知症とは、記憶・知的活動の能力が、日常生活で支障をきたすほど低下・消失する疾患の総称。15年で世界に4680万人の患者がいると推定され、50年にはその数は1億5千万人まで膨れ上がるものと見られている。

日本では、12年の統計では認知症患者が462万人、“予備軍”を含めると実に約800万人に上ると推計される。団塊の世代が75歳以上に移行する「2025年問題」を5年後に控え、深刻な問題を孕んでいる。

アルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭葉変性症などいくつかの種類に分けられる認知症の、実に6~8割を占めるのが「アルツハイマー型」だ。

「アルツハイマー型認知症とは、脳の神経細胞が死滅することで脳が萎縮していく、不可逆的かつ進行性の病気です。このとき、脳の皮質には“老人斑”や“神経原線維変化”と呼ばれる異常な構造物が増えていくのが特徴。老人斑はアミロイドβ、神経原線維変化はタウというタンパクを主成分とし、これらが蓄積していくことでアルツハイマー病が進行していくものと考えられています」

そう解説するのは国立長寿医療研究センター認知症先進医療開発センター治療薬探索研究部前部長で、大阪大学医学系研究科招聘教授の河合昭好薬剤師。

冒頭で触れた新薬アデュカヌマブは、このアルツハイマー型認知症の治療薬だ。

■認知症の進行にブレーキをかけられる

しかし、これまでもこの病気には治療薬が存在した。従来の薬とどう違うのだろう。順天堂大学医学部前教授で、現在はアルツクリニック東京院長の精神科医、新井平伊医師が解説する。

「従来使われていた薬は4種類。ドネペジル(商品名「アリセプト」)、ガランタミン(同「レミニール」)、リバスチグミン(同「イクセロンパッチ」「リバスタッチパッチ」)、そしてメマンチン(同「メマリー」)です。脳内にはアセチルコリンという“記憶”に関係する脳内ホルモンがあり、アルツハイマー型認知症が進むと、細胞機能の低下によりこのホルモンが減少していく。これら前3者の既存薬は、減少していくアセチルコリンを補充する働き、メマンチンはグルタミン酸関連の細胞障害防止の働きを持っています。一方、新薬のアデュカヌマブは、脳に蓄積されていくアミロイドβタンパクに取り付く抗体の働きで、アミロイドβを減らす作用を持っている。病気を川に例えるなら、従来の薬は“河口近く”に作用するのに対して、アデュカヌマブは“上流”に作用する。従来の薬が“対症療法”なら、新薬は“根治療法”と言えるでしょう」

アルツハイマー型認知症の病期分類は、以前は「健常者」と「認知症」の二分法だったが、現在は「健常者」「MCI(軽度認知障害)」「認知症」の3段階。最初にアミロイドβの蓄積が始まり、次に神経細胞の機能低下、続いてタウタンパクの蓄積が進み、そのあとで脳萎縮、認知障害が続く。近年ではMCIのさらに前段階として「SCD(主観的な認知機能の低下)」と呼ばれる段階を加えた4段階評価をすることもある。

既存薬はこのうち最後の段階である「認知機能の低下」が始まってからの使用が基本。これにより病気の進行を一時的に遅らせることはできても、その後は自然経過と同様の進行を示していく。つまり、効果は一時的なものであり、“改善”や“進行の抑制”を期待するものではなかったのだ。

これに対してアデュカヌマブは、認知症になってから使用しても一定の進行抑制作用が期待されるだけでなく、MCIやSCDなど、“より健常者に近い状態”から使用することで、病気の進行にブレーキをかけることができるという。

「SCDの段階で新薬を使い始めれば、生涯にわたって認知症にならずに済む可能性も出てきた。きわめて画期的なこと」(新井医師)

しかし、そんなアデュカヌマブにも、懸念されることがないわけでもない。河合薬剤師が解説する。

「アデュカヌマブは、第1相試験(フェーズ1=ヒトでの試験の導入段階)で、非常に高い効果が期待されるという論文が学術誌に掲載されました。しかしその後、第3相試験(フェーズ3=臨床試験の最終段階)で、『主要評価項目達成の可能性が低い』との判断から、試験そのものが中止になった。その後、被験者の数を増やして再度解析することで現状までこぎ着けたのですが、一度中止になった試験が再び始まるというのはきわめて例外的なことで、ここに懐疑的な印象を持つ研究者もいます」

認知機能の低下を抑制する効果判定では、プラセボ群に対してアデュカヌマブによる進行抑制効果が見られたのは23%。この数字に不安を覚える向きもあるという。

人間の脳には、異常な物質の血液を介した流入を防ぐバリア(B BB=脳関門)がある。薬効成分が脳関門を通過して脳に達する必要があるのだが、静脈に点滴投与するアデュカヌマブは、その透過性に関するデータがないことも不安材料だ。

■高額な薬価で1回の投与に100万円以上

そして、何より重大な問題として懸念されるのが、高額な薬価が予想される点だ。現状では1回の投与にかかる金額が100万円をはるかに超える可能性があり、毎月1回投与し続けると、効果があったとしても、恩恵に浴せる人はほんの一握りになってしまう。

「国民皆保険の日本では、健康保険で承認するかという問題があるので、そこは費用対効果で考える必要がある。場合によっては既存薬を健康保険の適用から外し、病気の進行を止める可能性のある新薬にお金をかける(保険適用とする)ことで、国民の健康長寿という国全体のメリットに寄与する、という考え方もできる。ただ、社会保障費に与える影響が決して小さくないことも事実であり、慎重な判断が求められる」と新井医師。

もう一つ、アデュカヌマブの問題点として挙げられるのが、投薬開始時期の判定の難しさだ。既存薬と違ってアデュカヌマブは、認知機能の低下が始まる以前から使用することで薬理効果を発揮する。そもそもアルツハイマー型認知症の第一歩である「アミロイドβタンパクの蓄積」が始まるのは、認知機能低下という症状が始まるより20年以上も前のこと。脳萎縮が始まるMCIの段階でさえ自覚症状を頼っての病気発見は困難とされており、アデュカヌマブを使うべき「MCI以前」の判定は難しい。そこで新井医師が提唱するのが、新しい脳の検査法による研究成果の応用だ。

「一般的な脳ドックの検査ではMRI(核磁気共鳴画像法)が用いられますが、これだと血管病変は早期発見できるが、脳萎縮はMCI後半にしかわからないし、アルツハイマーの最大の特徴であるアミロイドβの蓄積はわからない。そこでアミロイドβに反応する薬剤を点滴し、PET(ポジトロン断層法)で調べる“アミロイドPET”が有効です」

新井医師の運営するクリニックでは19年からこのアミロイドPETによる新しい脳ドック「健脳ドック」を導入し、これまでに70ほどの症例を蓄積してきた。

「アミロイドβタンパクが集積していると、検査薬がアミロイドβのある箇所に集まるので、それを画像上で確認する。がんのPET診断の“アルツハイマー版”です。この検査をすれば、症状の有無に関係なく、MCIはもちろん、S CDの段階での洗い出しも可能。そこからアデュカヌマブの投与を始めれば、理論上、アルツハイマーの発症を防ぐことも不可能ではなくなります」(新井医師)

ただ、このアミロイドPETの検査費用も、現状では1回あたり55万円と高額な点は大きなネックで、公的保険で全例に実施するとなるとさらに総医療費の高騰を招くことになる。

そこで、新井医師は“健脳ドック”で得られた臨床情報を用いて、アミロイド沈着の有無を予測する工程の確立に向けた検討を始めており、アルツハイマー病駆逐の実現を後押ししたい考えだ。

アデュカヌマブが起爆剤となり、新薬開発が活発化しそうだ。

「アルツハイマー型認知症に効果が期待される新薬の臨床研究は、19年の時点でわかっているだけでも100以上の薬の治験が世界で進められています。アデュカヌマブに代表される『疾患修飾薬(抗体)』のほか、同じ疾患修飾でも低分子薬の開発研究も続いています。特に低分子薬は抗体に比べて脳に到達しやすいので、この分野での新薬の開発は特に注目度が高い。治療薬の開発に加え、簡便・安価・高精度の血液を使った検査法の開発も進んでいます。これが実用化すれば、アミロイドβの異常な蓄積判定の簡便化や、治験薬の効果判定も容易になります」(河合薬剤師)