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「仕組みはあるが、医師会が怖い」日本企業がオンライン診療を国内でやらない残念な理由

高齢者の多い「ケーブルテレビ」でオンライン診療へ

ケーブルテレビ最大手のジュピターテレコム(J:COM)は7月からテレビを活用したオンライン診療サービスを始める。スマートフォンなどデジタル機器に不慣れな高齢者を普段見慣れているテレビで対応できるようにすることで需要を取り込む。

オンライン診療にケーブルテレビを使うのは国内で初めてだ。医療系のスタートアップと組んで家庭のテレビ画面上で診察の予約から受診までできるようにする。

まずは東京都杉並区や練馬区、千葉県木更津市などで提供を始め、2021年度内に同社の全エリアに広げる計画だ。

J:COMの会員はスマホなどに不慣れな高齢者がメインだ。コロナ禍で高齢者の通院は感染リスクなどから難しい。その点、各地域に事業所をもつJ:COMは、会員の問い合わせにエンジニアらが訪問や電話で対応するサービスをすでに展開している。

ネットフリックスやアマゾンなどネット配信の台頭で、テーブルテレビの市場拡大は長く頭打ちの状況だ。すでにJ:COMは「ショップチャンネル」をはじめ通販事業に乗り出しているが、この分野でもアマゾンなどを相手に苦戦を強いられている。新たにリモート診療をメニューに加えることで、収益基盤の強化につなげたい狙いがある。

サービス提供を前にすでにJ:COMはココカラファインなどのドラッグストア大手や、愛媛CATVなど地域の通信事業者など13社とオンライン診療サービス普及のためのコンソーシアムを立ち上げた。服薬指導や通信技術のノウハウを共有し、高齢者でも使いやすいオンライン診療サービスの開発を進めるのが目的だ。

「日本ではオンライン診療をやればやるほど赤字になる」

「望まれる方がオンライン診療をしっかりできるようになった。道が開かれるということだ」。

6月、河野太郎規制改革相が胸を張りこう述べた。新型コロナに対応するため時限的に解禁されていた初診からのオンライン診療が、規制改革の実施計画に盛り込まれることになったためだ。コロナ禍で初診からのオンライン診療もようやく恒久化に向けて進む見通しとなった。

政府は2022年度から実施する方向だが、こうした政府の動きに合わせてJ:COMのようにオンライン診療に参入する医療機関や民間企業の動きはまだ少ない。

その最大の問題が「診療報酬の低さ」だ。

厚生労働省がこのほど発表した4月末の登録医療機関数は15.2%と、2020年12月末から0.2ポイントの微増にとどまった。オンライン診療の報酬はコロナ禍で臨時に上乗せしているが、対面に比べると安く抑えられている。医療機関にとっては同じ患者の検診でも、対面のほうが収益を上げやすい。

システム導入などの費用は医療機関側の負担となる。通常の対面診療を削って医師の時間を確保したりする手間もかかる。厚労省の検討会でも「オンライン診療をやればやるほど赤字になる」などと診療報酬水準の低さを指摘する意見が相次いだ。

日本医師会は「地域での集客ができなくなる」と猛反対

さらに立ちはだかるのが、日本医師会の壁だ。オンラインの遠隔診療が広がると、地域で患者を集めて安定した経営をめざす従来の医療秩序が壊れるとの見方が根強い。オンライン診療が根付けば競争力のある医療機関に患者が集まる流れが加速する可能性を警戒する。

「町医者」を束ねる医師会は自民党にとって大きな票田だ。「オンライン診療が普及すれば医療資源を効率活用でき、ワクチン接種をする打ち手の不足などコロナ禍で騒がれる医療の逼迫(ひっぱく)緩和につながる」との指摘に政府・与党も理解を示すが、自民党にとっても9月にも総選挙が控える中、票田を失うとの恐れから大きく一歩を踏み出せずにいる。

4月末の東京都内のオンライン診療の登録機関は2056と半年で25しか増えていない。大阪府内も7しか増えず870にとどまっている。行政が提供する医療でも対応は一部にとどまっている。都でも4月から、体調が悪化した自宅療養者のオンライン診療を始め、医療機関への支援金も上乗せしたが、焼け石に水だろう。

オンライン診療「平安保険」利用者は3億5000万人超

国内では普及が遅れているが、中国ではオンライン診療が急拡大している。ネット通販大手の京東集団(JDドットコム)の傘下企業では20年の登録医師数が19年と比べて12倍の約11万人に膨らんだ。

日本で問題になっている「低い診療報酬」については「競争原理」を導入。中国のオンライン診療の料金は、人気のある医師ほど高額な料金を設定できるようになっているため、それぞれの医師が、24時間対応や事前に診断料などがわかる仕組みを提供するなど、患者のニーズにこたえるさまざまなメニューやサービスを開発し、顧客獲得にしのぎを削っている。その結果、対面よりオンラインのほうが報酬は高くなり、医師の争奪戦も発生している。

さらに中国では百度(バイドゥ)、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)のIT(情報技術)3強が参入済みだ。スマホなどを通じ、検診や薬の処方なども日常的に実施している。ウーバー・イーツや出前館のようなデリバリーフードサービスが「薬の配達」も同時に提供している。

オンライン診療最大手の平安保険では問診も軽い疾患はAIで自動化されている。診断の難易度が高い場合は医師につなぐ仕組みになっており、その使い勝手の良さから同社のオンライン診療サービス「グッドドクター」の利用者は3億5000万人を超える。

米国ではオンライン診療の有料会員が約5000万人

米国も同様だ。米国ではオンライン診療サービス最大手テラドック・ヘルスが5000万人近い有料会員を抱える。米アップルも腕時計型端末「アップル・ウオッチ」に心電図機能を搭載。米グーグルが米病院運営大手と提携している。

インドの調査会社マーケッツアンドマーケッツによると、IoT(モノのインターネット)を医療に応用する市場は25年には1882億ドル(約20兆6000億円)と20年の2.6倍に膨らむとの予測もあり、海外ではコロナを機に規制を緩和した政府の動きもあり、市場の争奪が活発化している。

日本の民間企業では規制の緩い海外の事業を先行させている。

ヘルスケア事業を強化している三井物産は累計で約3000億円を投資している東南アジア最大の病院グループであるIHH(マレーシア)などでオンライン診療を導入している。すでに対象地域は8カ国・地域まで広がっている。診断以外にも処方した薬を自宅に届けたりするなど、先行導入したインドではオンライン診療の受診件数が、1日平均で約400件に上るという。

AIを活用し、入院前に治療費の目安を示すサービスもシンガポールで導入した。IHHは約3000万人分の診療データが保有されており、患者の症状や年齢を基に診療前に費用を予測し、患者が安心して治療を受けられるようにしている。

大手医療機器メーカー「日本医師会を刺激したくない」

医療機器を手がけるオムロンも遠隔診療のサービスを欧米やシンガポールで先行して始めた。4月に参入した英国では患者が自宅で測定する血圧値を電子カルテと接続し、異常があれば医師や看護師に知らせる仕組みを提供している。

両社ともオンライン診療の恒久化を見越して今から海外で治験を積むことで将来の国内事業参入を目指しているが、「日本医師会を刺激すると、機器納入などに悪影響を起こしかねない」(大手医療機器メーカー)との声も多い。

ようやく日本でも「かかりつけ医」がいない場合でも一定条件をクリアすれば初診からオンライン診療を認めることを決めたが、「政治がどこまで医師会の抵抗を振り切ってオンライン診療を解禁するか見通せない中で積極的に投資しづらい」(大手商社)という状況だ。

コロナ禍で医師不足に伴う医療逼迫を声高に叫びながら、オンライン診療を認めない医師会の既得権益や業界と一体となった「岩盤規制」をどう切り崩して、高齢化が進む日本の医療改革に踏み出すか。ここでも政治の決断が迫られている。