アップルは先週、すべての人のiPhoneの内部の写真をスキャンして、児童の性的虐待に絡むコンテンツを検知する計画を発表したことで、プライバシー擁護派の人々から激しい反発を浴びている。
アップルは、iPadやMacを含むiCloud対応デバイスに保存されているすべての写真を、児童の性的虐待のコンテンツ(CSAM)のデータベースと比較し、「ハッシュ」をチェックする。データを暗号アルゴリズムで処理して作られる数字であるハッシュを用いることで、その処理を迅速に行える。
そして、問題がある画像はアップルの社員の確認を経て、法執行機関であるNCMEC(全米行方不明・被搾取児童センター)と共有されるという。
一方で、米国の企業は法律により、サーバー上の児童虐待や搾取の画像をNCMECに報告することが義務付けられており、グーグルやマイクロソフト、フェイスブックも同様の対応を行っている。それでは何故、プライバシー擁護団体は今回のアップルの発表に反発しているのだろう?
それは、アップルがiCloud上のデータだけでなく、個人のiPhoneの内部の写真を検査の対象とするからだ。これは、競合企業よりも一歩踏み込んだ行為と言える(同社は別のテクノロジーを使って、端末内部の子供のヌード写真をスキャンしているが、この作業はすべてデバイス上で完結するもので、問題のあるコンテンツが発見された場合、簡単な警告が表示される)。
元フェイスブックのセキュリティスタッフで、暗号化技術の専門家であるアレック・マフェット(Alec Muffett)は、ツイッターで次のように述べた。誰かが携帯電話を買う場合、自分が所有する端末のすべてのコントロール権を手に入れると思うはずだ。しかし、アップルは「違法なコンテンツがiCloud にアップロードされることを防止するという名目」で、ユーザーのデバイスの内部に介入しているのだ。
エドワード・スノーデンもアップルを批判
マフェットだけでなくジョンズ・ホプキンス大学のマット・グリーン教授や、エドワード・スノーデンらも、アップルの動きに警鐘を鳴らしている。彼らは、アップルが他の政府の意向次第で、人々のデバイスにある別のタイプのコンテンツの検閲を行う可能性があると述べている。
「このような機能が民主的ではない国家で、どのように利用されるかは、はっきりしている。例えば、中国政府であれば、アップルに何を要求するだろう?」と、マフェットは問いかけている。
スノーデンは6日のツイートで、「アップルは、地球規模の監視ツールを導入しようとしている。彼らは児童ポルノだけでなく、あらゆるコンテンツをその対象に出来る」と述べた。
電子フロンティア財団(EFF)も、アップルの措置がユーザーのデバイスに「バックドア」を仕込むことを意味すると指摘した。「アップルの措置は、一部の政府機関には歓迎されるかもしれないが、プライバシーとセキュリティに関してアップルに信頼を寄せてきたユーザーにとっては、大きな裏切りだ」と、彼らは述べている。
しかし、アップルの措置を肯定的に捉える声も一部から上がっている。セキュリティの専門家で、カリフォルニア大学バークレー校の講師であるニコラス・ウィーバー(Nicholas Weaver)は、リスクを冒してまで、児童の性的虐待に対して厳しい態度を取ることを選択したアップルを責めることはできないとツイッターで述べた。
また、スタンフォード・インターネット・オブザーバトリーのDavid Thielは、ほとんどの人々のネットに接続されたデバイスの画像が、すでにCSAMのデータベースと照合されていると指摘する。
「今回のアップルの措置は、児童の被害を防ぐ上での合理的で、限定的な対応だ。世論の過剰な反発に、私としては苛立ちを感じてしまう。仮にプライバシーの侵害になったとしても(実際には侵害されていないが)、世界にはバランスをとるべき物事があるのだ」と彼は主張した。