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「遊んで稼げる」オンラインゲームで貧困を抜け出す人々

「アクシー・インフィニティ」は、プレイを通じて報酬を得られる(play-to-earn:以下P2E)ゲームだ。アクシーと呼ばれるポケモンのようなキャラクターを購入し、対戦させて育成し、ゲーム内通貨である「SLP(Smooth Love Portion)」の獲得をめざす。

獲得したSLPは、本物の通貨と交換できる。P2Eは、ゲームをプレイすることの見返りとして、プレイヤーに報酬を暗号通貨の形で提供するビジネスモデルだ。個々のアクシーは、ノンファンジブルトークン(NFT)となっていて、売買ができる。

対戦に参加するには、最低3体のアクシーを持っていなくてはならない。そのためには、少なくとも200ドル前後の初期投資が必要だ。2020年、最高額のモンスターは300イーサリアムで販売された。当時の価値で13万ドル以上に相当する。

おかしな名前を鼻で笑う前に、知っておいてほしいことがある。アクシー・インフィニティのNFTの総売上は40億ドルを超えており、暗号通貨を得られるP2Eゲームの人気はうなぎのぼりだ。レディットの共同創業者であり、アクシー・インフィニティに出資するアレクシス・オハニアンは、P2Eゲームは5年以内にゲーム市場の90%以上を占めると予言する。

かつてYouTubeの広告収益化部門を率い、現在はベンチャーキャピタルのシグナルファイア(SignalFire)でパートナーを務めるウェイン・フー(Wayne Hu)が、筆者をこのメタバースに案内してくれた。フーによれば、アクシーのメタバースでは、すでに大勢の人々が稼いでいるという。とくにフィリピンでは、アクシー・インフィニティが爆発的人気を誇る。プレイヤーはトークンで報酬を受け取り、それをデジタルウォレットに送信して、のちに暗号通貨と交換する。

プレイヤーは、ゲーム内通貨を実世界の現金として引き出すことができる。米国ほど豊かではないフィリピンなどの国々で、若者たちが月に数千ドルを稼いでいる。ゲーマーとその家族にとって、この額の現金は、人生を変えるものだ。メタバース内で稼ぐことで貧困から抜け出した人々が、世界中に大勢いるのだとフーは言う。

アクシー・インフィニティを取り巻くエコシステムの発展は著しい。高収入を見込める仕事と考えて参入するプレイヤーはもちろん、プレイヤーに融資する銀行家、プレイヤーを雇用するコミュニティマネージャー、新規プレイヤーにノウハウを教えるコーチ、メタバース内に土地を所有する地主などが登場している。

競争コストが急激に上昇するなか、プレイヤーには金銭的支援が必要になり、裕福なマネージャーが「奨学金」としてこれを提供している。銀行家は、モンスターを販売したり、モンスターのチームを貸し出す代わりに、勝利報酬であるSLPの一部を徴収する形で投機をおこなっている。

フーの推定によれば、アクシー・インフィニティのデイリー・アクティブユーザーは約250万人で、このうち40~50%がフィリピン人だ。アクシー・インフィニティやその他のNFTベースのP2Eゲームは、それぞれ独自の閉じたエコシステムを形成しており、人々はそのなかで交流し、ゲームを楽しみ、報酬を稼ぐ。

アクシー・インフィニティの経済は、新規ユーザーの増加を基盤としている。新規ユーザーは3体のアクシーを買う必要があり、この購入代金がアクシーの経済を回しているのだ。

ただし、このモデルは危険を伴う。ゲームの人気が落ち、必要な初期投資が大きくなりすぎれば、人々はアクシーを去り、もっと手頃な他のP2Eゲームに乗り換えるだろう。

現時点では、新規ユーザー数の成長は爆発的だ。アクシー・インフィニティの開発会社であるベトナムのスカイ・メイビスは、1億5200万ドルの資金調達に成功し、評価額は30億ドルにのぼる。同社の売上はすでに20億ドルを突破したとされる。同社のマーケットプレイス取引高は、1日に3000~4000万ドルに相当する。

こうしたデジタルエコノミーを、単なるゲームと片付けるのはたやすい。だが、それがメタバースにおいて「仕事」の定義を書き換え、人々に生計を立て家族を養う手段を提供していることも、また事実なのだ。