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アップルがどうしても開発者会議をリアル開催したかった理由

「今回のWWDC、どうだった?」

メディア向けの新型MacBook Airのハンズオン会場となったSteve Jobs Theaterにいたアップルフェロー、フィル・シラーから尋ねられた素朴な質問の裏に、不安と期待が入り乱れた表情を読み取ることができた。

シラーはもともとアップルの製品マーケティングのトップを務め、製品発表会の顔として長年にわたって顧客との関係作りに尽力してきた人物だった。現在、イベントのディレクターのような立ち回りも務め、ホスピタリティあふれるシラーが、今回のイベントの成否を気にするのは当然だ。

それ以上に、アップルのビジネスそのものにも関わる、重要な意味合いがある。

WWDCは開発者との直接対話の場

アップルにとって、世界開発者会議、World Wide Developers Conference(WWDC)は、開発者との貴重なコミュニケーションの場だ。新型コロナウイルスのパンデミックの影響で2年間はバーチャル開催、つまりオンラインでセッションを配信したり、デジタルラウンジを通じた交流の場を用意するなど、オンラインに移行した。

今回のイベントでもバーチャル開催は維持されたが、一部の開発者を本社がある巨大なApple Parkに招いたのだ。食堂エリアを用いた屋外会場を設営して感染対策をしながら、プレスも含めた1000人規模のパブリックビューイング形式を採った点が新しかった。

そもそも、Apple Parkにこれだけ大勢の社員以外の人々を招き入れること自体、初めてのことだった。アップルが開発者との良好な関係を作り、喜ばせようとすることこそ、シラーが考えていた「顧客」との関係作りの一つだったのではないだろうか。

そのシラー氏がイベントの善し悪し、つまり開発者にとってどうだったのかを気にするのは、シラーがこれまで勤めてきたキャリアとも関係がある。

製品担当だが、App Storeも担当した理由

フィル・シラーは製品マーケティングを担当する上級副社長だったが、途中からApp Storeの担当にもなった。もともとApp Storeは、インターネットサービスの役員のエディ・キューが担当していた。

しかし例外的にApp Storeがシラーの担当になったことは、アップルのビジネスモデルにとって重要な変化と位置づけることができる。

App Storeは、iPhoneにアプリを入れて機能を拡張するための窓口となっており、iPhoneユーザーがアプリを無料もしくは有料でダウンロードする「場」だ。そのアプリを提供しビジネスを行うのが開発者となる。

App Store以前の、デバイス販売中心のアップルのビジネスの発想でいえば、アップルが開発者からアプリを仕入れ、これをiPhoneユーザーに販売する一方通行のモデルであり、開発者はサプライヤーやパートナーという位置づけだった。

しかしシラーが担当になったことは、開発者もまた、アップルにとってはサプライヤーではなく、マーケティングする対象である「顧客」になったことを意味する。

WWDCに、アップルの時価総額3兆ドル達成のヒントがある

iPhoneユーザーが増えれば増えるほど、開発者が集まってビジネスに参加してくれる。良質なアプリがいち早くiPhone向けに集まれば集まるほど、iPhoneユーザーが喜び、また増えていく。その間でアップルは、販売手数料の15〜30%のプラットフォーム提供料を徴収するのだ。

これは、シリコンバレーのビジネスの勝ちパターンとして認知されている「マルチサイドプラットフォーム(Multi-side Platform)」というビジネスモデルそのものだ。BtoBtoCや、MSPなどといわれるプラットフォーム戦略は、二つの役割双方にとってプラスの循環を作り出し、場の提供とマッチングを通じて手数料を徴収する、継続的な成長モデルとして知られている。

アップルは、プラットフォームとしてのApp Storeを挟んで、ユーザーにはiPhoneの機能やデザイン、ブランドの向上を通じて喜んでもらい、他方の開発者に対しては、ニーズを拾い、ソフトウェアや開発環境の向上を通じて、より新しいアイデアを実装できるようにする。

このモデルの成立によって、もともと時価総額競争で期待されていなかったアップルは1兆ドル、2兆ドル、3兆ドルまで一番乗りするほどに、企業価値を高めることができた。WWDCでの開発者との対話は、結果として、時価総額3兆ドル達成の一翼を担っていたのだ。

新OSの狙いとアプリの未来

アップルはWWDC2022の基調講演で、開発者に対して、9月にリリースされ、順次新機能が追加されていく新しいソフトウェア群を披露した。iPhone向けiOS 16、iPad向けiPadOS 16、Apple Watch向けwatchOS 9、Mac向けmacOS 13 Venturaを発表し、アプリ開発者が作ったアプリが今後どんな環境で動くことになるのか、またどのような新しい技術を活用できるようになるのか、情報提供を行うのが目的だ。

例えばiPhone向けのiOS 16では、ウィジェットを配置できる新しいロック画面や、機械学習を用いた写真の切り抜き、写真だけでなくビデオの中に映り込んでいる文字を読み取ることができるテキスト認識表示(Live Text)など、目新しい新機能の数々が披露された。

加えて、今後のiPhoneはどのような使い方になっていくのか? を示唆する要素も盛りこまれ、アプリ開発者のアイデアをくすぐる場面も用意されていた。

例えばFaceTime中に同時に映像や音楽を楽しむことができる機能として昨年SharePlayが発表されたが、2022年はこれを拡張し、共有先にメッセージのグループを追加。また対象もエンターテインメントだけでなく、文書やメモなどの一般的な、写真ライブラリに拡げ、iPhoneユーザー同士のコラボレーションを実現する使い方が紹介された。

開発者は、標準アプリでの実装をヒントに、自社アプリに新しい機能を取り込み、まったく異なる用途を生み出すきっかけを作り出そうとする。まさに、WWDCの基調講演は、世界中の開発者が新しいアイディアを一斉に考え始めるDay 0の瞬間なのだ。

アップルはiPhoneを登場させたとき、InstagramやTikTokなどのアプリが新しい世代のクリエイティブの場になったり、iPhoneでタクシーやフードデリバリーを呼んだり、カメラを使ってテニスやバスケットボールの球速やショットの統計を取れるようになるとは考えていなかったはずだ。

いずれも、アプリ開発者がiPhone向けアプリとしてアイデアを傾け作り出したものであり、そうした議論やトレンドが、リアルなイベントの場で生み出されてきた記憶が色濃いのだ。

まだ限定的とはいえ、アップルがリアルなイベントにこだわった理由は、iPhoneとアプリの未来を描くためだったのではないだろうか。