Open AIの会話型AIサービスである「Chat GPT」の流ちょうな受け答えに感嘆していたら、今度はGoogle(グーグル)が独自の大規模言語モデル「LaMDA」を搭載する「Bard」を発表した。人間との応答により、独自のアウトプットを生成できる「ジェネレーティブAI」が年初から巷をにぎわせている。そして今、ある米国のスタートアップ発のグローバルコミュニティサービスがAIによる「応答の品質」を変えようとしている。
米の新生スタートアップによる「AIを鍛える」プラットフォーム
Bobidi(ボビディ)は2021年に創立されたばかりの若いスタートアップだ。現在はカリフォルニアのロス・ガトスに拠点を構えている。2月7日にScrum Ventures(スクラムベンチャーズ)が都内で開催したイベント「SCRUM CONNECT 2023」に、創業メンバーの1人でもあるCEOのチェ・ジョンシュウ氏が参加し、会社と同名のサービス「Bobidi」を日本に紹介した。
一般に、AIは入力されたデータを機械学習モデル(AIモデル)により解析して結果を導き出す。従ってAIモデルのクオリティはAIによる解析と評価に大きな影響を与えると言われる。例えばチャット型AIの場合、AIモデルの出来次第ではコミュニケーションがスムーズに成り立つ場合もあれば、反対にとんでもない方向に会話を導いたり、言葉づかいのミスによるトラブルを招くリスクも生まれる。
Bobidiが提供するのは、質の高いAIモデルを開発するためのトレーニングプラットフォームだ。独自のモバイルアプリにユーザーを集めて、コミュニティサービスがAIデータセットを磨き上げて精度を高めるという、ユニークなサービスの仕組みに注目したい。
AIトレーニングに参加意欲の高いユーザーが集まる
現在、アプリはiOS/Androidの両プラットフォームに対応する。アプリの名称もまた「Bobidi」だ。誰でも無料で使えるアプリだが、Apple IDやグーグル、Facebook(フェイスブック)のアカウントにひも付けたユーザー登録が必要になる。
アプリを開くとテーマの異なる複数の「オープンチャレンジ」がリストになって並んでいる。それぞれのオープンチャレンジはAIモデルを鍛えるための内容の異なるトレーニングだ。
例えば「きょうの天気」をAIモデルに話しかけて、文字に起こされたテキストの誤認識をユーザーがマニュアルで修正して精度を高めたものが、Bobidiにデータ作成を依頼したクライアントに提供される。「いろいろな花瓶の写真」を撮影してAIに教えるオープンチャレンジなどもある。
これらのオープンチャレンジに、ユーザーはゲーム感覚で参加できる。チャレンジをクリアした先の対価として「Bobs」と名づけたポイントが付与されるからだ。1 Bobは0.001ドルに換算され、ユーザーは5000 Bobs(5ドル)以上を稼ぐと、AIモデルのトレーニングに参加した報酬として現金交換ができる。報酬はPayPalにより支払われる。同社にはBobidiに参加することによって生まれる収入に、感謝するユーザーの声が次々に寄せられているという。
Bobidiのプラットフォームは「AIを活用するデバイスやサービスの開発を検討する企業にとって、作りたいAIモデルに合わせてテーマを絞り込みつつ、質の高いデータセットが集められるメリットがある。開発にかかる期間も数分の1程度にまで短縮できるだろう」とチェ氏は説く。
Bobidiのモバイルアプリは日本でも各アプリストアからダウンロードできるが、残念ながらまだ対応言語は英語のみで、地域も北米だけで提供されている。日本からオープンチャレンジに参加することができない。Bobidiは早晩、韓国にオフィスの設立を予定している。同じタイミングでサービスの対応言語とエリアを拡大する計画だ。
AIモデルは「量より質」の時代
チェ氏は「もはやAIの開発においてはビッグデータ(データの規模)よりも、精度の高いデータセットが重んじられている。Bobidiのプラットフォームもまた、やみくもに多くのデータを収集することを目的としていない。クライアントが必要とするデータをピンポイントで集めて、AIモデルの長所を伸ばし、弱点をつぶす用途に役立ててほしい」と呼びかける。
2023年2月現在、Bobidiアプリのアクティブユーザーは3000人前後だという。チェ氏は「ユーザーはみな参加意識が高く、また属性も多様性に富んでいる。クオリティの高いデータを集めるために十分な規模に到達している」と胸を張る。
サービスの提供を開始して以来、NAVERやLGエレクトロニクスに代表される大手企業や、北米のスタートアップがBobidiに関心を寄せているという。今回SCRUM CONNECTに参加したことで、日本市場への進出にも弾みが付くことを期待したい。日本語対応のAIモデルのトレーニングにも、Bobidiが大いに役立ってくれると思う。
2023-02-13 19:38:37