グーグル社内で外部からのデータ開示請求に対応するのが、LIS(Legal Investigations Support)と呼ばれる法務調査をサポートするチームだ。このチームは法執行機関からの捜索令状や、裁判所の召喚状、亡くなったユーザーの遺族からのデータ開示要求などに対応している。
昨年5月、ブラジル南部で壊滅的な洪水が発生した際に同国の司法省と警察は、行方不明者の携帯電話の位置データの開示をLISに要求した。それを受け、LISは迅速にデータを提供し、約40人の命が救われた。
しかし、グーグルはその後、約120人のLISのチームのうちの20人に影響を与えるレイオフを実行した。10人が完全に解雇され、他の10人はシカゴとオースティンの拠点に移動するか退職するかの選択を迫られた。グーグルは、2022年中頃からLISの新規採用を凍結していたが、レイオフがそこに追い打ちをかけた形だ。
フォーブスがLISの現役および元メンバーならびに事情に詳しい関係者に話を聞いた結果、重要な公共安全業務を担うこのチームが近年縮小され、士気が低下していることが判明した。
「このチームは、きわめてセンシティブな業務を担当しているが、現状では最低限のリソースでの運営を強いられている」と現役社員の1人は述べた。ブラジルでの救助活動の成功直後に解雇が行われたことはショッキングであり、すでに士気が低下していたチームの運営が非常に困難になるだろうと、別の人物は語っている。
残されたLISの人員は、急速に増加するデータ開示要求の対応に追われており、未処理のタスクの量は夏以降も増え続ける見通しだという。その中でも最も重要な任務には、パンデミック後に急増した故人のGoogleアカウントへのアクセスを求める遺族からのリクエストの対処があるという。
民主党のベッカ・バリント下院議員は、グーグルの公共の安全と法執行機関を支援するチームの人員削減は「明らかに懸念されるべきことだ」とフォーブスに語った。「プラットフォームは、ユーザーのデータを安全に保ち、法執行要求に応えるためのリソースを確保する必要がある」と彼は述べている。
ここ数年でLISの人員が縮小する一方で、作業負荷は増加している。グーグルが公表した透明性レポートによると、過去5年間にわたり世界の法執行機関からのリクエストは増加し続けており、2023年1月から6月までの、世界の政府からの開示要求件数は21万件を超え、前の6カ月の19万件以上から増加していた。
AIの導入も失敗
連邦警察はまたLISに対して特定の単語を検索した人々の情報や、特定のYouTube動画を視聴した個人のデータを求める要求を行ってきたが、グーグルはその要求に応じられない場合もあった。グーグルは、2022年7月に連邦捜査局(FBI)から人種差別的な脅迫を含むとされるYouTube動画をレビューするよう求められたが、裁判資料によると、スタッフの1人は、「人手不足」を理由に適切に対応ができないと回答していた。グーグルは、当局が問題のライブストリームを特定するために十分な情報を提供しなかったと主張し、FBIの主張に反論した。
グーグルは、LISの作業を迅速化するために人工知能(AI)を使用しようとしたが、計画どおりにはいかなかった。情報筋によると、2021年に同社は裁判所の召喚状や捜査令状などのドキュメントをスキャンし、要求されたデータを特定してLISチームに送信するツールを導入した。しかし、このツールはうまく機能せず、作業が煩雑で時間がかかるものになったという。
人手不足とそれを補うテクノロジーの欠如の中で、LISは苦境に立たされている。しかし、一部の技術的な変更が彼らにいくらかの助けをもたらすかもしれない。グーグルは、Googleマップの仕様変更で、ユーザーの位置情報が自社のクラウドではなく個人のデバイスに保存されるようになると6月に発表した。同社はこの変更で、位置情報の開示要求に応じられなくなる。
グーグルは、この変更によってブラジルで実施したような救助活動の支援が、将来的に不可能になることを認めている。