ある厳しい統計がある。小規模企業の約半数は、立ち上げから5年以内に破綻するという。主な原因は、キャッシュフローだ。しかし、人工知能(AI)などのテクノロジーが大きな助けとなるかもしれない。こうしたテクノロジーは、小企業のビジネスを一変させる可能性すらある。
ただ、そのハードルは非常に高い。小企業には、ビッグデータや技術的な専門知識を駆使してAIを活用するためのリソースがなく、多くの場合、こうしたテクノロジーはより大規模な企業に向けて作られている。
この状況を変えようとしているのが米イントゥイット(Intuit)だ。同社はAIに大きな投資を行っており、自社のクラウド会計サービス「QuickBooks」にAI技術を導入してきた。
同社でAI関連の仕事に従事する従業員の数は今年、6割増加しており、104の機械学習モデルを作成し、同分野で447件の特許を申請している。さらに同社の重要な強みは、700万社以上のビジネスユーザーから得た莫大なデータだ。同社は、6800万件の給与データや4億件の請求書、550億ドル(約6兆円)分のオンライン決済データ(タッチポイントは260億以上)を分析できるのだ。
以下に、AIが活用されているQuickBooksの機能をいくつか紹介する。
・キャッシュフロー・プランナー
AIを利用し、今後90日間にわたる日々のキャッシュフローのニーズを予測する機能。事業主が深刻な問題を抱える前に手を打つための欠かせない機能といえる。また、請求書を発行したり融資を受けたりすべきタイミングを知らせる機能も備える。
・QuickBooksキャピタル
あなたの会社は、起業から数年が経過しないと銀行から融資を受けられない。これは金融業界特有の保守的なアプローチだが、後ろ向きなリスク評価方法でもある。しかしAIを活用することで、より前向きなアプローチが取れる。それを実現するのが本機能で、高確率で融資を受けられ、コストも削減できる。
・走行距離の記録
これはQuickBooksの標準機能に組み込まれている。アプリを使うことで、スマホのGPS機能を利用して自動車での仕事関連の移動距離を測る。この機能による節税効果は平均で年間7000ドル(約76万円)以上だ。このAIシステムでは、仕事上の支出の切り分けとよくある出張の認識が改善している。
・レシートの読み取り
同サービスのアプリはAIを利用し、領収書のスキャニングを効率化している。スキャンしたレシートからは、必要な情報のみが抽出され、分類された上でQuickBooksに記録される。スキャン結果の約43%は4秒以内に処理される。さらに、AIを活用した機能により、そうした支出の中から控除対象なものが選別される。
・コンプライアンス
膨大な規制をすべて把握して遵守するのは大変なことだが、たったひとつの違反でも小企業にとって致命的になりかねない。QuickBooksはAIを活用し、人事や税務などに関して問題となりそうな点を洗い出してくれる。
AIが全ての問題を解決してくれるという訳ではない。実際のところ、AI技術はまだまだ完全というには程遠い。特に財務関係の問題は、これまで通り専門家に相談した方が賢明だ。そこでイントゥイットでは、事業主と会計士とを仲介する月額制サービス「QuickBooks Live Bookkeeping」を始めた。QuickBooksでは、ユーザーの約40%が会計士を雇っていない。
だが、このサービスはただマッチングするだけでなく、会計士とのビデオチャットでよりしっかりとした体験を提供するものだ。
イントゥイットのアレックス・クリス執行副社長兼ゼネラルマネージャー(小企業・自営業グループ担当)は「QuickBooksが目指すのは、意思決定と結果の改善のための専門家主導AIプラットフォームの構築だ」と語る。「小企業が対等に競える環境作りが大切だ」
2019-12-08 16:59:35